ろう者とろうあ者の違いは?呼び方や難聴者との違い・起こりやすい問題を簡単に解説!

「ろう学校」が身近にある場合、それを聴覚障がいをもつ児童や生徒が学ぶための学校ということは認識していると思います。
ろう学校には「ろう者」や「ろうあ者」と呼ばれる児童や生徒が通っていますが、二者の違いについて、正しく知っていますか。
また、同じ聴覚障がい者に含まれる「難聴者」とは、どのような違いがあるのでしょうか。
この記事では、「ろう者」「ろうあ者」「難聴者」の違いと、起こりやすい問題をご紹介します。
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目次
ろう者とろうあ者の違いは?
聴覚障がいは、先天的または後天的な原因によって音が聞こえなかったり聞こえづらかったりする障がいです。
音を聞き取りづらい人を「難聴者」、音が聞こえない人を「失聴者」と呼ぶのが一般的ですが、そのほかに失聴者を「ろう者」「ろうあ者」と呼ぶ場合があります。
ろう者とろうあ者の違いは、「あ」が付くか付かないかですが、呼び方が似ていてもまったく同じ意味というわけではありません。
ろう学校の存在などから「ろう」という呼称を知る人は多いと思いますが、「ろう」と「ろうあ」の違いについて明確に説明できる人は限られるのではないでしょうか。
漢字で書くと「ろう」は「聾」、「ろうあ」は「聾唖」と書きます。
どちらも、日常的に使用する機会の少ない漢字で、「聾」は耳が聞こえないことを表し、「唖」は口をうまく使って話せないことを表す漢字です。
この2つの漢字を合わせた「聾唖(ろうあ)」は、「耳が聞こえず、口を使う言語を話せない」という意味になります。
ろう者について簡単に解説
ろう者について簡単に解説すると、「生まれつきや音声言語を習得する前に失聴した聴覚障がい者」のことです。
他者とのコミュニケーションには、音声言語ではなく手話を使用するのが一般的です。
文化的・言語的観点からは、日常的に手話で会話をする言語的少数者を「ろう者」と呼びます。
医学的な観点では、両耳の聴力が100dB以上の最重度聴覚障がいを「ろう」と呼びますが、現在は医学的な観点よりも文化的観点から判断することが多いようです。
例えば、両耳100dB以上の最重度聴覚障がい者であっても、聴力を失った時期や環境によって、自らを「ろう」ではなく「難聴者」「中途失聴者」とする場合があります。
「ろう」はひとつの呼称に過ぎないため、「ろう」と呼ぶか否かを決めるのは、手話を使用する聴覚障がい者本人の考え方によるところといえます。
ろう学校は、幼稚園・小学校・中学校・高等学校に準ずる教育のほかに、聴覚障がいによる困難を補うために必要な技能(手話など)を習得する学校です。
ろうあ者について簡単に解説
ろうあ者について簡単に解説すると、幼児期以前から重度の聴覚障がいがあり、音声言語を習得できなかった人のことです。
以前は、音を聞き取れず、口で話しができない障がいのことを「ろうあ」と呼んでいました。
聴覚に重度の障がいがあると、音の聞き取りができないため、音声言語を聞いて覚える学習ができません。
そのため、他者とのコミュニケーション方法として手話を学ぶのが主流です。
近年は、ろう教育として手話のほかに、音声言語を発音するためのトレーニングも進んでいます。
ろうあ者のなかには、聴者のようなスムーズな会話はできなくても、音声言語の発話によって、ある程度の意思疎通を図れる人も増えてきました。
近年は、ろうあ者が必ずしも音声言語を話せないという状況ではなくなったことから、「ろうあ」という呼称はなくなりつつあり、「ろう者」と呼ぶようになっています。
ろう者やろうあ者の正しい読み方は?
ろう者やろうあ者の正しい読み方は、「ろうしゃ」「ろうあしゃ」になります。
漢字で書くと聾者・聾唖者になり、重度の聴覚障がいを抱える人の呼称のひとつです。
ろう教育をおこなう学校には、耳が聞こえないことを表す漢字の「聾」の字を用いて「聾学校」と表記するところが多数あります。
一般的には「ろう」「ろうあ」の呼称が浸透しているわけではなく、なんとなく知っている程度の認識の人がほとんどです。
公共の場などでは、「聾者」「聾唖者」と難しい漢字で表記することは少なく、多くの場合、ひらがなで「ろう者」「ろうあ者」と表記しています。
ろう者やろうあ者の正しい呼び方は?
学校や公共機関においては、「ろう者」「ろうあ者」という呼び方が使われることがありますが、日常的に使われることはありません。
聴覚障がい者の呼び方には、「耳の不自由な人」「耳の聞こえない人」「聴覚障がい者」「中途失聴者」「難聴者」などがあります。
いずれの呼び方も、対象者本人が好まないことがあるので、十分な配慮が必要です。
「中途失聴者」や「難聴者」は、音が以前は聞き取れていた人や聞き取りづらい人に限定されますが、外見からは障がい者になった時期や程度の違いはわかりません。
ろう者やろうあ者の正しい呼び方は、どの対象者にもあてはまる「聴覚障がい者」が適切です。
ろう者と聴覚障がい者の違いは?

ろう者と聴覚障がい者の違いは、ろう者というのは障がいの程度で限定される呼称なのに対し、聴覚障がい者は障がいが起きた時期や程度に左右されない総称です。
ろう者以外の「中途失聴者」「難聴者」も聴覚障がい者となります。
生まれた時から音が聞こえなかったり幼児期に聴覚を失った場合など、将来的に手話を使用する可能性が高い場合は「ろう児」と呼ばれることがあります。
音声言語を習得したあとに聴覚を失った中途失聴者の多くは口で言葉を話せるため、ろう者とは呼びません。
ろう者と失聴者の違いは、手話を使っての会話をメインにする言語的少数者か否かにもよります。
ろう者と難聴者の違いは?
ろう者と難聴者の違いは、音の聞こえ方の差です。
ろう者は重度の聴覚障がいにより、音がまったく聞き取れないか、ほとんど聞こえないため、通級(通級指導)での学習は困難になります。
音声言語が聞き取れないので、一般的な学習のほかに、手話などの必要な技能を習得できるろう学校に通うのが一般的です。
一方の難聴者は、音の聞こえ方は人によって異なりますが、補聴器などを使えば音が聞こえやすくなり、音声言語による学習が可能な状態です。
音声言語を理解できるほど聞き取れる難聴者であれば、通級や特別支援学級で学べる可能性もあります。
聴者が難聴者やろう者とコミュニケーションをとる場合は、さまざまな配慮が必要になるため、下記の記事を参考にしてください。
関連記事:難聴者とろう者との違いは?コミュニケーション方法やできる配慮も解説!
ろう者やろうあ者の人口は?
身体障害者手帳を保持しているろう者・ろうあ者の人口は約34万人というデータがあります。
ろう者やろうあ者は、聴覚障がいと言語障がいのどちらの障がいも抱えている人です。
障害者手帳の保有状況に関わらず、聞こえづらさを感じている人は日本に約1,400万人以上いるとされています。
これは全人口の11.3%にあたり、およそ10人に1人は聞こえづらさを感じているという結果です。
難聴になる原因が加齢による場合もあり、音の聞こえづらさを感じる人は想像以上に多いことがわかります。
参考記事:聴覚障害者の情報アクセシビリティ
仕事や生活に大きな支障があるわけではないけれど、「何となく聞こえづらい」などの症状を自覚する人も含めると、聴覚に何らかの障がいを感じている人はさらに増えます。
日本における聴覚障がい者の出生率や、生活に直結している就職率についてご紹介している記事がありますので、そちらもご覧ください。
関連記事:聴覚障害者は日本では何人に一人の割合?出生率・就職率やできる配慮も解説!
ろうは遺伝する?
親から子に遺伝する確立が高い身体的な障がいがありますが、ろうは遺伝するのでしょうか。
難聴は先天性の障がいのなかでも、最も発症率が高い障がいです。
先天性難聴になる原因には、非遺伝性(感染・外傷・高熱など)と遺伝性(遺伝子の変異)があり、全体のおよそ68%が遺伝性によるものだといわれています。
人間は誰でも、一対になった2つ(父親側・母親側から1つずつ)の遺伝子を持って生まれます。
難聴が生じる遺伝子パターンは全部で4つあり、常染色体劣性遺伝・常染色体優性遺伝・X連鎖性遺伝・ミトコンドリア遺伝です。
このパターンの違いによって遺伝の仕方は異なり、パターンによって親が難聴だと子供も難聴になるケースもありますし、親に難聴がなくても子供が難聴になるケースもあります。
自分が難聴ではなくても、変異した遺伝子を持っていたとしたら、生まれる子供が難聴になる可能性は高くなります。
参考記事:(地方独立法人 埼玉県立病院機構)遺伝性難聴に関する情報
ろう者やろうあ者の子供の悩みとは?
ろう者やろうあ者の親をもつ子供はコーダ(Children of Deaf Adults)と呼ばれますが、コーダはどのような悩みを抱えているのでしょうか。
コーダならではの悩みがあるようですが、両親ともにろう者の場合や、両親のどちらかがろう者だった場合など、家族構成によっても悩みが多少変わる可能性があります。
コーダは生まれた時から、聞こえる人の生活環境と、ろう者の手話や視覚に基づく生活環境のはざまで暮らしています。
両親が手話で会話をする環境で育つコーダは、親と同じように身ぶりや手ぶりで話すのがあたり前になります。
しかし、父母のどちらかが聴者の場合などのコーダが手話を使えるとは限りません。
コーダはある程度成長すると、自分が周囲とは異なる環境で生活していることに気が付きます。
それまであたり前だと思っていたことが普通とは違うことに気付き、それにともないさまざまな悩みが生まれるようです。
下記のリンク先では、コーダのことやその悩みについて詳しくご紹介しているので、ぜひ読んでみてください。
関連記事:コーダの意味をわかりやすく解説!悩みやコミュニケーション方法を知り理解を深めよう
「ろう」は子供に遺伝する可能性が高い障がいです。
たとえ子供に遺伝しなかった場合でも、特有の悩みが生じるようです。
親子関係であっても、ろう者と聴者のやり取りには、聴者同士のコミュニケーション以上に工夫する必要があります。
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ろう者やろうあ者のあるあるは?
ろう者やろうあ者のあるあるは、聴覚に不足があるため、視覚や触覚を重視する生活をしていることです。
生活のなかに不便なことも多々ありますが、周囲(聴者)とのコミュニケーションにも困難が生じます。
例えば、近くにいる人に用事があるときは、音声言語を使って呼ぶことができないため、手を振ったり相手の肩を直接たたいたりして気付いてもらいます。
実際に気付いてもらえたとしても、聴者が使う第一言語と、ろう者(ろうあ者)が使う第一言語が異なるため、スムーズな言葉のやり取りができません。
うまくコミュニケーションがとれないと、日常生活・学校生活・公共機関などすべての場所において不便が生じます。
ろう者やろうあ者の「あるある」や聴者との違いについてご紹介した記事がありますので、そちらも参考にしてください。
関連記事:ろう者の「あるある」とは?聴者との違いや障がいを知って理解を深めよう
ろう者やろうあ者が感じる障がいと問題点

ろう者やろうあ者が感じる障がいや問題点の多くは、言語的少数者であることに起因します。
ろう者が主に使う手話には、「日本手話」と「日本語対応手話」があります。
伝統的手話とも呼ばれる「日本手話」は、ろう者が第一言語として習得する母語です。
両親がろう者の家庭や、ろう学校では日本手話が使用されるのが一般的です。
一方の「日本語対応手話」は、中途失聴者や難聴者など母語が日本語の人が使用する手法的な手話になります。
それぞれの母語が異なるため、日本手話を使うろう者同士の会話は成り立ちますが、それ以外の人とのコミュニケーションでは、言葉が通じないという問題が生じます。
機能語などの習得が不十分な場合に起こる問題
日本手話を母語とするろう者には、機能語などの習得が不十分な場合に起こる問題として、「9歳の壁」と呼ばれる時期があります。
一般的に子供の成長過程にはいくつかの段階があり、学校教育においても小学校低学年までは生活中心の教材が多く、それまでに経験したことをベースに学習します。
この段階の学習では、抽象的思考はあまり必要ではありません。
しかし、小学校3年生〜4年生くらいになると、間接経験を主体にした題材が多くなるため、抽象的思考を取り入れないと理解しづらくなってきます。
ろう者の学習も例外ではなく、9歳頃になると母語である日本手話にはない表現、機能語(助詞・前置詞・接続詞など)を使った抽象的思考が必要です。
そのため、言葉による抽象的思考の困難は、知的能力や学力に影響を及ぼすと考えられています。
参考記事:(独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所)聴覚に障害のある子どもの指導・支援
文章力により起こる職業上の問題
ろう者が話す日本手話は、日本語と比べると表現の種類が少ないこともあり、一般社会に出ると聴者との間に言葉の壁を感じる傾向があります。
日本語対応手話を使っている中途失聴者や難聴者の場合は、聴者と筆談などの方法を使って、比較的スムーズにコミュニケーションがとれます。
これは、日本語対応手話が日本語に基づいた言語であるためです。
しかし、ろう者はほとんどの場合、日本手話という言語を使用しています。
機能語などの習得が不十分で文章力が低いため、職業上の問題として、お互いの真意がなかなか伝わらない可能性が出てきます。
日本語と日本手話は、似ているようで全く違う言語なので、例えるならば日本語と中国語で会話するようなものです。
さらに、職場でのコミュニケーションでは、すべての聴覚障がい者に共通するトラブルもあります。
下記の記事では、ろう者を含む聴覚障がい者が働く職場において、起こりやすいトラブルや防止策などをご紹介しています。
関連記事:聴覚障害者のいる職場で起こりやすいトラブルとは?企業ができる防止策や配慮を解説!
コミュニケーションの問題
聴覚障がい者は、音声言語を話せる場合であっても、聴者のように音が聞こえているわけではありません。
ろうやろうあを含む聴覚障がいは、見た目にはわかりづらい障がいのひとつです。
聴者はあたり前のように、話しかける相手も耳が聞こえていると思ってしまう傾向があります。
普段と同じように話しかけられたり呼ばれたりしても、聴覚障がいがあると聞き取れないため、反応できません。
また、日本手話を母語とするろう者が抱えるコミュニケーションの問題は、日本語の特有な表現を理解できない可能性があるということです。
ろう者とのコミュニケーションを円滑におこなうためには、コミュニケーション方法に配慮することが重要です。
コミュニケーション方法の問題
ろう者はコミュニケーション方法として、難聴者や中途失聴者と同じように、相手の口元の動きから言葉を読み取る「口話」を使う場合があります。
口話は相手の口元や表情に視線を集中させるため、その行動を不快に感じる聴者がいるかもしれません。
また、ろう者が話す音声言語は発音が不十分なこともあり、相手になかなか伝わらないことがあります。
その他にも声のボリュームが大きすぎるなど、聴者が非常識に感じてしまう行動様式をとる可能性もあります。
しかし、その非常識ともとれる行動様式のほとんどは、音が聞こえないことによるものです。
聴覚障がい者のコミュニケーション方法の問題を解決するには、聴者との行動様式の違いを知り、それぞれの対象者に合った配慮をおこなうことが大切です。
関連記事:聴覚障害者は非常識?聴者との行動様式の違いについてまとめてみた
ろう者やろうあ者のコミュニケーションを支援する「Pekoe」
ろう者やろうあ者との円滑なコミュニケーションを支援してくれる存在として、手話通訳者の存在があります。
しかし、手話通訳者は常に人手不足の状態にあり、必要なときに依頼できない可能性が高い状況です。
手話通訳者を依頼できないときにおすすめの方法として、聴覚障がい者とのコミュニケーション支援サービス「Pekoe(ペコ)」が活用できます。
「Pekoe」は、音声言語をリアルタイムで文字に変換するサービスです。
会話を文字に変換してくれるので、ろう者(ろうあ者)は、相手の話す内容を理解しやすくなりますし、記録としても残せるのであとから見返すことも可能です。
また、「Pekoe」にはチャット機能も備わっているため、理解できない単語があっても、その場で質問できます。
パソコンやスマートフォンにアプリをインストールすれば、すぐに使用でき、無料のお試し期間もあるので、ぜひ試してみてください。
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まとめ
この記事では、「ろう者」と「ろうあ者」の違いや、起こりやすい問題についてご紹介しました。
同じ音が聞こえない障がいでも、ろう者(ろうあ者)と中途失聴者や難聴者とには大きな違いがあり、コミュニケーション方法も異なります。
ろう者は、日本語と異なる日本手話を使っているため、ほかの聴覚障がい者よりもコミュニケーションをとるのが困難です。
手話通訳者や聴覚障がい者向けのコミュニケーションツールなどを活用するなど、配慮を心がけましょう。
