サステナビリティ課題のマテリアリティとは?企業の特定プロセスや具体例も紹介!

近年、企業がサステナビリティやSDGsに対してどのように取り組んでいるのか、社会的な関心が高まっています。
企業の取り組み内容やその結果を公表する際に、優先して取り組む重要課題を指す言葉である「マテリアリティ」が使われています。
これから企業で持続可能な発展のための具体的な計画を立てようとお考えの方のなかには、
「企業のマテリアリティの必要性や特定プロセスを知りたい」
「サステナビリティ課題のマテリアリティの具体例にはどのようなものがあるのか?」
などの疑問をお持ちの方がいらっしゃるかもしれません。
本記事では、サステナビリティやマテリアリティについて詳しく解説していきますので、これから企業での取り組みを始める方は参考にしてみてください。
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目次
サステナビリティ課題のマテリアリティとは
「マテリアリティ」は直訳すれば「重要性」という意味ですが、サステナビリティの文脈では「重要課題」の意味を指します。
自社の企業活動で重要課題をわかりやすく示すものとして、多くの企業でマテリアリティが活用されています。
マテリアリティとは、企業が投資家や株主などのステークホルダーに対して、取り組みを発信するために活用されている非財務指標のひとつです。
非財務指標とは、経営理念、経営戦略や環境や社会への取り組みなど、数値化しにくい企業の指標や価値のことをいいます。
それに対して、財務指標とは、企業の業績を判断する数字で評価される指標のことです。
サステナビリティの観点から、社会課題の解決と持続可能な発展に向けた重要課題であり、外部からの評価の対象となる項目となります。
サステナビリティとマテリアリティの違いは?
サステナビリティとマテリアリティは、企業や組織が持続可能性に関する取り組みを理解し、実践する際に重要な概念ですが、それぞれ異なる意味を持ちます。
サステナビリティとは持続可能な発展を目指すという考え方で、その具体的な目標を示したのがSDGsです。
マテリアリティは、企業や組織がおこなう情報開示や報告など、利害関係者にとって重要な事項や課題を指します。
サステナビリティは企業や組織が持続可能な活動を実践するための理念やアプローチを示し、マテリアリティはその実践において、利害関係者との関係性や情報開示に焦点をあてたプロセスです。
SDGsにおけるマテリアリティとは?
SDGsにおけるマテリアリティは、SDGsを実現するために、特定の組織や企業が重要視するべき課題や取り組みを指します。
マテリアリティは企業ごとに特定され、外部に向けて発信されるものです。
特定までのプロセスも含め、公開されるケースも多くなりました。
特にサステナビリティ経営においては、さまざまな課題のなかで企業とステークホルダーの両者にとって大きな影響を及ぼすものを指します。
SDGsなどの世界中にあふれる多種多様な課題に、どのように優先順位をつけ、企業としてどのようなことに積極的に取り組もうとしているのかなど、企業の方針をステークホルダーに提示することがマテリアリティの役割のひとつです。
どのような課題を重要視しているのかだけではなく、なぜその課題を重要視しているのかまでをわかりやすく示すことで、ステークホルダーの意思決定にも役立ちます。
サステナビリティとマテリアリティの関係性は?
サステナビリティとマテリアリティは、持続可能性の観点からとても密接な関係です。
マテリアリティの特定によって、組織はサステナビリティの実現に重要な課題を特定し、それに基づいて具体的な戦略や取り組みを展開します。
サステナビリティとマテリアリティは、持続可能な発展を達成するための戦略的なアプローチとプロセスに密接に結びついています。
以下の記事では、サステナビリティについての企業の取り組みなどを具体的に解説しているので参考にしてみてください。
関連記事:サステナビリティとは?SDGsとの違いや意味・企業の取組事例をご紹介!
企業のマテリアリティの必要性
近年、マテリアリティを企業の公式サイトなどで目にする機会も増えてきました。
マテリアリティが必要とされるのは、CSRやサステナビリティの取り組みを、外部に向けてわかりやすく発信するための手段となります。
ステークホルダーの非財務指標への関心が高まったことにより、マテリアリティの重要性も増しています。
企業が存続していくためには、より幅広いステークホルダーが求める情報を積極的に開示し、対話の中から信頼関係を深めていくことが重要です。
マテリアリティはそのための重要な役割を果たしています。
サステナビリティに取り組む企業については以下の記事で詳しくご紹介しています。
関連記事:サステナビリティ企業とは?SDGs目標達成に重要な取り組みや活動も紹介!
マテリアリティを特定するのはなぜ?
CSR報告書やサステナビリティ報告において、自社の活動が社会に及ぼす影響を、ステークホルダーや従業員にわかりやすく伝える必要があります。
そのためにも、企業はマテリアリティを特定して公表することが効果的です。
これまでの企業活動では、利益の追求が最も重要であったため、マテリアリティはそれほど重要視されていませんでした。
しかし、近年では、企業を評価する際、「この会社はきちんと社会課題に取り組んでいるのか」「環境に配慮した経営をしているのか」なども評価の対象になっています。
世界中にあふれる多種多様な課題に、どのように優先順位をつけ、どのようなことから積極的に取り組もうとしているのか、それをステークホルダーに提示するのがマテリアリティの役割です。
マテリアリティの特定プロセス

マテリアリティの特定プロセスは、企業ごとに多様な報告書で示されていますが、共通している部分は以下の7つです。
- 課題をリストアップする
- 一定の基準に沿って課題を分析・評価する
- 課題に優先順位を付ける
- 判断結果の妥当性を確認する
- マテリアリティを特定する
- 事業戦略に取り組む
- 定期的に見直しと更新をおこなう
今後、企業の課題を特定するプロセスでお役立てください。
課題をリストアップする
まずは、社内外の環境課題をリストアップするところから始めます。
環境課題とは、例えば「CO2排出量削減する」「従業員一人ひとりに教育投資をし人材不足を補う」などです。
リストアップする際には、バリューチェーン全体をカバーする広い視点でおこなうのがポイントです。
バリューチェーンとは、経営学者マイケル・ポーター教授の自著「競争優位の戦略」のなかで提唱したフレームワークであり、製品やサービスなどが顧客に届くまでの一連の流れを示します。
原材料の確保や製造、販売などさまざまな段階において、どのような環境課題が発生しているのかを考慮します。
一定の基準に沿って課題を分析・評価する
リストアップした環境課題が、一定の基準に沿って重要度に達しているかを判断するために分析や評価をします。
よく用いられる評価軸は、「ステークホルダーに対する影響」と「持続可能性に対する影響度」です。
例えば、気候変動という課題の場合は、「気候変動に対してステークホルダーはどれくらい関心を持っているのか」などを評価します。
実際に評価する際は、ステークホルダーをジャンルで分けたうえで、アンケートやインタビューを実施しながら進めます。
課題に優先順位を付ける
リストアップした環境課題の重要度を、「ステークホルダーに対する影響」と「持続可能性に対する影響度」で評価をし、それをもとに対応の優先順位を付ければマテリアリティを特定できます。
重要なのは特定するだけではなく、マテリアリティの解決のために、企業としてどのような取り組みをしていくのかを明確にし、外部に発信することです。
課題に優先順位を付けたりプロセス策定のイメージがつきにくい場合は、同じ事業を展開する企業や、同じ規模感の企業のものを見てみるのもよいでしょう。
判断結果の妥当性を確認する
次のステップは、その環境課題が本当に重要性が高いものか、判断結果の妥当性を確認するプロセスです。
CSR委員会による取締役会への報告など、適切なプロセスを通じておこないます。
ステークホルダーと良好な関係を保つために、ステークホルダーへの配慮も忘れてはいけません。
マテリアリティを特定する
優先順位を定めた課題から、リスクとチャンスの分析、事業戦略との整合性の確認、産業動向と市場の変化の分析をおこないマテリアリティを特定していきます。
組織が直面する環境的、社会的、ガバナンス関連のリスクや機会を評価し、それらが組織の戦略やビジョンにどのように影響を与えるかを考察します。
あらゆるリスクやチャンスのなかから絞られた課題が、本当に自社の理念、中長期戦略に特定されたマテリアリティとマッチするのかを考慮することが大切です。
事業戦略に取り組む
マテリアリティは特定するだけでなく、実際にその課題の解決に向けて取り組むことで、企業価値の向上につながります。
マテリアリティにどのように取り組んでいくのか、KPI(達成度を計測するための指標)の事業戦略へ組み込みます。
KPIに落とし込む際はできるだけ具体的な方針・対策を設定し、経営戦略へ落とし込むことが重要です。
定期的に見直しと更新をおこなう
マテリアリティの特定は一度きりの作業ではありません。
環境や組織の状況は変化するため、定期的な見直しと更新が必要です。
近年、SDGsは、社会的課題に対する国際的な枠組みを整備する動きが活発になっています。
時代の変化に対応するため、最初の特定から数年後にマテリアリティを見直し、再設定する企業も増えています。
マテリアリティのKPIとは?
マテリアリティのKPIは、企業が持続可能性やCSR(企業の社会的責任)の目標を達成するために使用されます。
KPIは、環境への影響、社会的責任、経済的成果など、事業活動の重要な側面を測定し、モニタリングするための指標です。
具体的なマテリアリティのKPIには、エネルギー効率、廃棄物削減、CO2排出量削減、従業員満足度、社会的貢献活動の実施率などが含まれます。
一般的なKPIの設定方法は、特定したマテリアリティを考慮した中長期的な目標設定とその達成に向けた単年度目標を設定します。
例えば「CO2排出量削減」では、中長期的目標として「2030年度目標を2020年比50%削減」、2024年度の単年度目標としては「前年比3%削減」などと定められます。
企業のマテリアリティ実現に向けた計画は、中期経営計画および単年度事業計画にも織り込むことが重要です。
サステナビリティのマテリアリティの具体例

実際に企業がどのようにマテリアリティを特定して公開しているのかをご紹介します。
企業がSDGsやサステナビリティに対して具体的に何をおこなっているのかは、いまや多くのステークホルダーの関心事です。
経済産業省の「SDGs経営ガイド」でもいわれているように、マテリアリティを特定し、それと関連の深い目標は何かを見定めることがSDGsの達成へと大きく近づきます。
企業のサステナビリティ課題のマテリアリティの具体例を参考に、自社の取り組みの参考にしてください。
味の素
味の素グループは、最新の社会情勢およびステークホルダーの意見、期待をふまえ、マテリアリティ項目を継続的に見直し、内容の更新をしています。
そのひとつが「食と健康の課題解決への貢献」です。
味の素グループ創業から、「うま味を活かした栄養豊富でおいしい食を普及させ人々を健康にしたい」という創業者の志を継ぎ、その思いを世界へと広げてきました。
現代社会における食・栄養の課題やニーズは多様化・複雑化していますが、味の素グループは事業を通じて栄養課題解決へのインパクトの最大化を目指しています。
具体的には、「おいしい減塩の実践支援」や「職場の栄養改善」、「バイオ医薬品の受託開発・製造」です。
これは、SDGs目標2「飢餓をゼロに」、目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」の達成を目標としています。
野村総合研究所
野村総合研究所NRIグループはビジネス環境や社会環境の変化、ダブルマテリアリティの考え方も踏まえて、ステークホルダーからの期待・要請を考慮したマテリアリティを特定し、「Group Vision2030」に組み入れています。
持続可能な未来社会づくりを実現するために「活力ある未来社会の共創」「最適社会の共創」「安心安全社会の共創」の創出を目指します。
経営基盤のひとつとして、「地球環境への貢献」があります。
2030年までに、再生可能エネルギーのさらなる高度利用を進め、ビジネスパートナーと協働しながら自然資本への配慮と持続可能な地球環境づくりに貢献することです。
そのために、「温室効果ガス排出量削減」「再生可能エネルギー利用の促進」などの取り組みをしています。
参考記事:マテリアリティ|サステナビリティ|野村総合研究所(NRI)
ソフトバンク
持続可能な社会への貢献と持続的な成長の両立を目指すコンセプト「すべてのモノ・情報・心がつながる世の中を」をテーマとして、ソフトバンクグループでは6つのマテリアリティを特定しています。
経営理念の「情報革命で人々を幸せに」を具現化するとともに、成長戦略「Beyond Carrier」とをつなぐ重要な羅針盤です。
6つのマテリアリティのひとつである「DXによる社会・産業の構築」では、さまざまな産業を担う企業との連携による新しい事業や産業の創出に取り組み、経済成長への貢献を目指します。
「DXによるスタートアップや多様な産業で新規ビジネスを創出」「DXを通じた共創促進」「スマートシティの実現」に取り組んでいます。
参考記事:マテリアリティ(重要課題)|ソフトバンク
リコーグループのマテリアリティ
リコーグループの「環境経営」は環境保全と利益創出の同時実現を意味しており、この考えに基づいたマテリアリティです。
事業活動のどのステージで、どれくらいの環境負荷が発生しているのか検証した結果、以下のような環境保全上の課題が抽出されました。
- 製品を使用するお客さまの視点
- 将来の事業成長性、世界各地の環境規格の動向
- 格付け機関や社会的責任投資による企業評価
このような課題を、あらゆる観点から分析し、地球環境や社会への影響と経営への影響を評価し、「環境行動計画」に落とし込んでいます。
地球環境と社会、自社事業への影響においてマテリアリティの高い環境経営の課題に注力し、その取り組みと結果はWebサイトや報告書で開示しています。
「製品の新規投入資源削減」「製品エミッショの低減」「事業所のCO2削減」は環境経営のマテリアリティの取り組みです。
関連記事:環境経営の全体像 -環境経営の重要課題- RICOH
まとめ
今回の記事では、サステナビリティ課題のマテリアリティを詳しく解説しました。
SDGsにおけるマテリアリティは、SDGsを実現するために、特定の組織や企業が重要視するべき課題や取り組みを指します。
企業が存続していくためには、より幅広いステークホルダーが求める情報を積極的に開示し、対話の中から信頼関係を深めていくことが重要です。
マテリアリティを特定するプロセスも、参考にして取り組んでみてください。
