聴覚障害者の自立活動とは?指導案の立て方や具体例もわかりやすく紹介!
「特別支援学校」や「ろう学校」などの教育現場では、聴覚障害をもつ子どもの社会的自立を支えるために、自立活動の指導案を作成しています。
自立活動の指導案を立てるにあたり、
「どのようにねらいや活動例を組み立てればよいのかがわからない」
とお困りではないでしょうか?
本記事では、聴覚障害者の自立を目指す指導案の立て方や、具体例をわかりやすくご紹介していきます。
聴覚障害者へのコミュニケーション方法や支援技術を知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
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目次
聴覚障害者の自立活動とは?
自立活動とは、障害をもつ子どもが自立を目指し、学習や生活上の困難を克服するために組み込まれた活動を示します。
自立活動が定められているのは、特別支援学校や特別支援級、通級などの指導の場です。
一般の教育現場では実施しない領域のため、「特別の指導」とも呼ばれています。
小中学校の学習指導要領には、すべての幼児児童に対し、人間として調和のとれた育成が目標として明記されています。
調和のとれた育成の柱となる能力が、以下の3要素です。
- 何を理解して何ができるか(知識・技能)
- 理解していることやできることをどのように使うか(思考力・判断力・表現力)
- どのように社会や世界とかかわり、よい人生を送るか(学びに向かう力・人間性)
ですが、障害児は日常生活や学習のなかでつまずきが発生してしまうため、学習指導要領だけでは上記の3要素が十分に育成できません。
そのため、各教科の指導に加え自立活動の領域を設けて指導をすることにより、3要素が育成できるようにしています。
どんな子どもが対象となる?
自立活動の対象者は、以下のとおりです。
- 特別支援学校に在籍の子ども
- 特別支援級に在籍の子ども
- 通級に在籍の子ども
自立活動の指導の取り扱いは、以下のように定められています。
| 教育の場 | 指導の取り扱い |
| 特別支援学校 | 自立活動に関する事項は、いずれの学校でも取り入れる |
| 特別支援級 | 障害による学習、または生活上の困難を克服して自立を目指すため、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領第7章に明記されている自立活動を取り入れる |
| 通級 | 特別支援学校小学部・中学部学習指導要領第7章に明記されている自立活動を参考にしながら、具体的なねらいや活動内容を定め指導をおこなう |
| 通常の学級 | 障害児は個々の障害に応じ、指導内容や方法を工夫して計画的におこなう |
支援学校や支援級に在籍する子どもはもちろん、通常の学級のなかで支援を必要とする子どもに対しても、自立活動の視点を取り入れるように意識するのが重要です。
自立活動が必要な聴覚障害には、中途失聴や難聴などさまざまな種類があります。
聴覚障害の種類を理解すれば、一人ひとりに合わせた支援ができるので、しっかりと確認しておきましょう。
関連記事:聴覚障害の種類をわかりやすく解説!タイプや症状・原因についても理解を深めよう
自立活動の目標は?
自立活動の目標は、特別支援学校学習指導要領により以下のように定められています。
- 個々の児童又は生徒が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識・技能・態度及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基盤を培う。
自立活動の「自立」には、障害の状態や発達段階に合わせて主体的に個々の能力を可能な限り発揮し、よりよく生きていくことが意味されています。
自立活動の指導を参考にして、自立を図るために必要な知識や技術、態度などを養うことを目指します。
聴覚障害者の自立活動のためにどんな指導案を立てればいい?
自立活動の指導案は、主に以下の項目で構成されています。
- 子どもの実態
- 実態の要因
- ねらい
- 手立て
子どもの障害の状態や特性は皆異なるため、どのように指導案を立てればよいのか迷うかもしれません。
そのような場合、一人ひとりの姿を自立活動の「6区分27項目」に照らし合わせていくと、それぞれに合ったねらいや活動内容がみえてきます。
聴覚障害者の指導案の立て方にお困りの方は、6区分27項目を参考にしてください。
自立活動の6区分27項目とは?
自立活動は、「人間として基本的な行動を成し遂げるために必要な要素」「障害による学習または生活上の困難を改善・克服するために必要な要素」の2つで構成され、さらに6つの区分と27の項目に整理されています。
| 区分 | 項目 |
| (1)健康の保持 | ①生活のリズムや生活習慣の形成に関すること ②病気の状態の理解と生活管理に関すること ③身体各部の状態の理解と養護に関すること ④障害の特性の理解と生活環境の調整に関すること ⑤健康状態の維持・改善に関すること |
| (2)心理的な安定 | ①情緒の安定に関すること ②状況の理解と変化への対応に関すること ③障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること |
| (3)人間関係の形成 | ①他者とのかかわりの基礎に関すること ②他者の意図や感情の理解に関すること ③自己の理解と行動の調整に関すること ④集団への参加の基礎に関すること |
| (4)環境の把握 | ①保有する感覚の活用に関すること ②感覚や認知の特性についての理解と対応に関すること ③感覚の補助及び代行手段の活用に関すること ④感覚を総合的に活用した周囲の状況についての把握と状況に応じた行動に関すること ⑤認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること |
| (5)身体の動き | ①姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること ②姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること ③日常生活に必要な基本的動作に関すること ④身体の移動能力に関すること ⑤作業に必要な動作と円滑な遂行に関すること |
| (6)コミュニケーション | ①コミュニケーションの基礎的能力に関すること ②言語の受容と表出に関すること ③言語の形成と活用に関すること ④コミュニケーション手段の選択と活用に関すること ⑤状況に応じたコミュニケーションに関すること |
参考記事:特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編
6区分27項目のチェックシートがある?
各都道府県の教育センターや支援学校には、6区分27項目のチェックシートがあります。
チェックシートは、障害児の自立活動の目標や内容を考える際に役に立つシートです。
- 自己の障害の特性を理解し感情や行動を調整できる
- 相手の表情や語気から気持ちを感じとり、適した行動がとれる
- 得手不得手がわかり、表明できる
などの6区分に沿った細かなチェック項目があり、「とても必要である」課題に〇、「必要である」課題に△を付けていきます。
そうすることで、◯と△の数を比較して一人ひとりに合う優先課題を見つけられます。
以下のような場合に、このシートを使用してみてください。
- 子どもの全体像を知りたい
- 子どもの得意なことや苦手なことを知りたい
- 具体的な自立活動の目標や活動内容が決まらない
チェックシートの様式は各機関で異なりますが、内容や使用方法はだいたい同じですので、お住まいの地域のものをぜひ確認してみてください。
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項目に沿った聴覚障害者の自立活動の具体例は?
聴覚障害者の自立活動の具体例を、以下の項目に沿ってご紹介します。
- 健康の保持
- 心理的な安定
- 人間関係の形成
- 環境の把握
- 身体の動き
- コミュニケーション
健康の保持の具体例
授業の中で自分の聴覚障害について調べ、理解する機会をつくります。
現在、自分の聴覚状態がどのようなものなのかを知り、今後の生活のために必要な工夫や補聴器の管理方法などを理解するのがねらいです。
これは、健康の保持の具体例になります。
普段、生活のなかで自分の障害に触れる機会はあまりないため、健康保持の項目は障害児の自立活動ならではの項目といえるでしょう。
心理的な安定の具体例
「タイムを計りながらプリントに取り組む」のは、心理的な安定の具体例にあてはまります。
これは、たとえば「競争することを好む」特性がある子どもに合った援助方法です。
「学習に集中できない」という困難があるのを理解し、どのようにしたら克服できるのかを考えていきます。
タイムを測るのがその子どもに適しているとわかれば、家での宿題時にも「タイムを測ってやってみよう」と伝えて習慣化することが可能です。
人間関係の形成の具体例
「人とコミュニケーションをとるのが苦手」「自分から集団行動に入らない」など人間関係の形成を育成するにはゲームが有効です。
特別支援学校や支援級でおすすめのゲームに、「コミュニケーションゲーム」があります。
今回ご紹介するコミュニケーションゲームは、「トーキングゲーム」です。
質問カードを引いて、カードに書いてある質問への答えや考えを口話や手話で話す、とてもシンプルな内容なので誰でも簡単に参加できます。
好きな食べ物や興味のあるものなど、お互いを知るよいきっかけになります。
勝ち負けも正解不正解もなく気軽に楽しめるのも、コミュニケーションゲームの特徴です。
環境の把握の具体例
聴覚障害があると、教師や周りの子どもの声や音が聞き取りづらいです。
そのため、学習中は必要な音だけが耳に入りやすいよう机や椅子の足にボールをつけて雑音を防いだり、個室で学習するなど環境を整えます。
これは、環境把握の具体例です。
一人ひとりの聴覚障害の状態を把握すれば、それぞれ最適な環境が整備でき、集中して学習に取り組めます。
身体の動きの具体例
普段から発音の練習をしていないと、発語するときにうまく口を開けて話すことができません。
そのような子どもには、正しく口を動かして発語できるように支援していきます。
たとえば、「いちご」「もも」などのイラストが描かれたカードを順番に見せながら、描かれたものの名前を一緒に発音します。
職員が先に正確な発音をしてみせることにより、正しい口の動かし方を身につけていきます。
日頃から少しずつ取り入れていけば、発音の仕方にも変化が現れます。
コミュニケーションの具体例
聴覚障害児のコミュニケーション方法は、手話・発語・指文字など多様ですが、多くの子どもはひとつの方法のみを使用しています。
しかし、それではコミュニケーション方法が異なる子どもと、コミュニケーションが思うようにうまくとれません。
ですので、授業の中で手話・発語・指文字など多くの方法を活用して、お互いの意思疎通が円滑におこなえるようにしていきます。
これが、コミュニケーションの具体例です。
指導にあたって配慮することはある?
自立活動の指導にあたり、配慮しなければならない3つのポイントをまとめました。
- 基本的には個別指導の形態でおこなうが、ねらいを達成するうえで効果的な場合は集団を通して指導する
- 自立活動の標準授業時数は定められていないが、実態に応じて適切な授業時数を確保する
- 個々の子どもの実態把握に基づき、指導すべき課題を明確に挙げて指導計画を作成する
また、関連記事でもご紹介している通り、聴覚障害児には授業が聞き取りにくい・チャイムがいつ鳴ったのかわからないなど学校生活で困ることがあります。
これらの学校生活で困ることも併せて理解することで、自立活動を効率よくおこなうことが可能です。
まずは、聴覚障害の知識をしっかりと頭に入れましょう。
関連記事:聴覚障害者が学校生活で困ることは?必要な配慮やコミュニケーション支援ツールも紹介!
指導に配慮をしていても、教師が板書をしながら発した言葉や複数人の発言があった場合などには相手の発言がわからないことがあるため、そういった問題に対応する環境の整備も必要です。
リコーでは、聴覚障害者のためのコミュニケーションツール「Pekoe」を提供しています。
音声がその場で文字化されるので、学校の授業でも役に立ちます。
子どもでも簡単に始められるので、気になる方はこちらも併せてチェックしてみてください。
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まとめ
聴覚障害者の自立活動とはどのようなものなのかを、詳しくご紹介しました。
自立活動は、子どもが自立を目指し学習や生活上の困難を克服するためのもので、6つの区分と27の項目で構成されています。
自立活動の指導案を立てるには、子ども一人ひとりの障害の状態や特性を理解することが大切です。
本記事を参考に、子どもが成長できる指導案を立てていきましょう。
