インクルージョンな社会とは?企業が取り組むメリットや問題も徹底解説!

インクルージョンな社会とは、どのような社会のあり方かご存じですか?
日本の企業では、インクルージョン推進のために、さまざまな取り組みをしています。
今回の記事では、SDGsやダイバーシティとインクルージョンな社会との関係を詳しくご紹介します。
さらに、企業が取り組むメリットや問題点も徹底解説!
インクルージョンな社会を理解して、現在抱えている問題点を知るきっかけになれば幸いです。
目次
インクルージョンな社会とは?
インクルージョンには、「包括」「包含」「一体性」などの意味があります。
社会におけるインクルージョンとは、異なる社会文化的背景、個人的特質などをありのまま受け入れ、誰もが対等な関係で関わり合い、能力を発揮できる組織や社会、文化づくりを目指すものです。
近年は、性別・人種・年齢などの属性的の違いだけでなく、経験や価値観・一人ひとりの個性を互いに理解し、尊重し合うダイバーシティの重要性が高まっています。
インクルージョンな社会とは、一人ひとりが自分らしく組織に参加できる機会を創出し、貢献していると感じることができるように、日々のマネジメントや文化をつくろうとする発想に基づいています。
参考記事:社会的インクルージョンについての一考察
SDGsの目標とインクルージョン
SDGsの目標とインクルージョンについて解説します。
インクルージョンは、SDGsの目標4、8、10、11、16で使用されています。
・目標 4「質の高い教育をみんなに」
すべての人々への、包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
・目標8「働きがいも経済成長も」
包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
・目標10「人や国の不平等をなくそう」
各国内及び各国間の不平等を是正する
・目標11「住み続けられるまちづくりを」
包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
インクルーシブの理念とSDGs
・目標16「平和と公平をすべてのひとに」
平和で誰もが受け入れられ、すべての人が法や制度で守られる社会をつくる
「地球上の誰一人取り残さない」ことを誓うSDGsは、あらゆる人が排除されないことを意味するインクルージョンと近い理念です。
目標16のターゲット
インクルージョンの詳細は、以下の記事でもご紹介しているので、ぜひご覧ください。
関連記事:インクルージョンとは?ダイバーシティとの違いや取り組み事例もわかりやすく解説!
ソーシャルワークインクルージョンとは?
ソーシャルワークインクルージョンとは、「社会的包摂」と訳され、「社会的に弱い立場にある人々を社会の一員として包み合う」という理念をいいます。
高齢者や障がい者、外国人や失業者など、社会的に弱い立場の人々を排除するのではなく、社会の一員として包み支え合うという考えが、ソーシャルインクルージョンです。
ソーシャルインクルージョンは社会福祉の再編にあたり、社会的排除に対処するためにヨーロッパをはじめとする国々で生まれました。
日本では、2000年12月に厚生省で編集された「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会報告書」で、「すべての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合う」と記されています。
ソーシャルワークインクルージョンは、格差によって排除されている人々を救うシステムとして期待されています。
参考記事:厚生労働省「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」報告書
ダイバーシティの意味とインクルージョンの関係
ダイバーシティの意味とインクルージョンとの関係を解説します。
インクルージョンと似た概念のダイバーシティ(Diversity)は、「多様性」「種々」「雑多」などの意味を持つ英単語です。
ビジネスシーンでは、多様性を受け入れること、具体的には人種や性別、宗教や考え方など、さまざまな違いをもつ人同士がお互いを受け入れ、同じ職場で働いている状態のことを指します。
これまでは、ダイバーシティの考え方が主流でしたが、近年は、インクルージョンの考え方を合わせて採用する傾向にあります。
例えば、社内でダイバーシティを推進するために、障がい者や外国人を採用しても、受け入れる職場の環境や業務、教育体制などが整備されていなければ、十分に能力を発揮できません。
また、社内で管理職登用を推進する場合、個々の能力や希望、個人的な事情に配慮して登用しなければ、かえって離職を促してしまうおそれもあります。
このように、多様な個性を受け入れるだけでなく、個性を尊重してすべての人が活躍できる環境を整備するのがインクルージョンの考え方であり、ダイバーシティを実現するための補完的な概念です。
参考記事:ダイバーシティとインクルージョンの概念的差異の考察
ダイバーシティ&インクルージョン社会とは?
ダイバーシティ&インクルージョン社会とは、人材の多様性であるダイバーシティを認め、インクルージョンの概念で受け入れて活かす社会とされます。
性別・年齢・国籍など、さまざまな属性をもつ人々を等しく認め、それぞれの個性、能力に応じて適材適所で活躍できる場を与えよう、という考え方です。
受け入れた人材が働きやすく活躍できる環境がなければ意味がないなどの問題から、ダイバーシティにインクルージョンをプラスするようになっていきました。
これを、ダイバーシティ&インクルージョン社会といいます。
ソーシャルインクルージョンの具体的な取り組み

日本のソーシャルインクルージョンの具体的な取り組みをご紹介します。
世界では、障がいや病気、年齢や生まれた環境など、自分ではどうにもならないことが原因で、社会から孤立してしまう人がいるのが現状です。
それに対して、国や自治体、企業がソーシャルインクルージョンの実現を目指し、さまざまな取り組みをしています。
- 退職年齢の引き上げ
- 障害者雇用の促進
この2つを詳しく解説していきます。
退職年齢の引き上げ
2013年に政府が「高年齢者雇用安定法」を改定し、退職年齢の引き上げがおこなわれました。
定年が60歳から65歳へ引き上げられた背景には、少子化による労働力人口の低下が見られること、年金確保が難しくなっていくことなどがあげられます。
定年の引き上げは平均寿命が上がり、まだまだ働く意欲のある高齢者が、活躍し続けることができる社会の構築の第一歩です。
現在は経過措置期間で、定年を60歳と定めている企業も多くありますが、2025年4月からは定年制の企業すべてに、65歳定年制の採用が義務付けられます。
高齢者が社会の一員として勤め続けることで、高齢者の相対的貧困を防ぐことも期待されます。
参考記事:「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止
障がい者雇用の促進
日本には、障がい者雇用の促進を図ることを目的とした法律「障害者雇用促進法」が定められています。
障がいの有無に関わらず、全員が参加できる社会の実現を目指す法律のひとつです。
具体的には、このような内容が定められています。
- 事業主が障がい者を雇用する義務や差別の禁止
- 障がい者が平等に働くために必要かつ適当な変更及び調整
2021年3月1日にこの法律が改定され、障がい者の法定雇用率が2.2%から2.3%に引き上げられました。
企業では、従業員43.5人に対し、1人の障がい者を雇用することが求められています。
2026年には、2.7%に引き上げられることが決まっています。
2012年時点で障害者雇用率は、法定雇用率にはとどいていないものの、9年連続で過去最高を記録していて、着実な進展がみられます。
参考記事:厚生労働省「障害者雇用促進法の概要」
福祉におけるインクルージョンの事例
福祉におけるインクルージョンの事例をご紹介します。
- もにす認定制度
雇用に関するノウハウなどを十分に有していないことで、中小企業は大企業と比べると、障がい者の雇用が進んでいないという課題があります。
そうした中でも、障がい者雇用に積極的に取り組む中小企業もあることから、これらの中小企業を認定し、その企業がロールモデルとなることで、地域での取り組みが促進されることを目指すため、「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度」(通称「もにす認定制度」)が、令和2年度にスタートしました。
愛称である「もにす」には、明るい未来や社会の実現に向けて「ともにすすむ」という思いが込められています。
さらに、障がい者にとって良質な雇用の場をつくることは、組織全体のダイバーシティが促進され、女性・高齢者・外国人など誰もが働きやすい場をつくることにつながります。
「もにす認定制度」とは?
福祉の分野では、障がいの有無に関わらず、一人の人間として、地域社会で自立して生き生きと暮らせる環境づくりが必要です。
関連記事:インクルージョンで障害者や福祉との関係は?基本理念や大切なポイントも簡単にご紹介!
インクルージョン推進のメリット
企業にとっての、インクルージョン推進のメリットを3つご紹介します。
SDGsの目標を達成する以外にも、インクルージョン推進に取り組むことは、企業にとって以下のようなメリットがあります。
- モチベーションアップと生産性の向上
- 人材の定着や離職率の低下
- 企業のイメージアップ
この3つのメリットの内容を詳しく解説していきます。
モチベーションアップと生産性の向上
インクルージョンを推進することで、社員のモチベーションアップと生産性の向上につながります。
自分の個性や発言が受け入れられやすい職場は、従業員のモチベーションを向上させる環境です。
それにともなって、企業としての生産性の向上が期待できます。
人材の定着や離職率の低下
日本では少子高齢化により労働人口が減少し、さらに転職も盛んになってきました。
そこで優秀な社員や若手社員の転職を防ぐために、社員の定着率を高める必要があります。
そのためには多様な働き方が可能なインクルージョンを推進させることが重要です。
例えばさまざまな人材や柔軟な働き方を採用することで、働きやすい環境づくりとしてアピールできます。
伸び伸びと実力を発揮できて、働きがいがある環境は、人材の定着や離職率の低下につながります。
企業のイメージアップ
近年社会的に「多様性が認められる企業で働きたい」と考える人が増えています。
このような状況下でインクルージョンを実現することは、自社が「多様性を認めている企業」としてアピールするきっかけになります。
さらにインクルージョン推進施策の情報開示は、ステークホルダーからの評価向上につながるはずです。
インクルージョンの推進は企業PRにもなり、企業ブランドの価値向上が実現すれば、業績や採用活動への相乗効果が期待できます。
インクルージョン推進に必要なステップ

ここからは、インクルージョン推進に必要なステップを解説します。
インクルージョン施策を適切に進めるための流れは以下です。
1 経営トップの先導
インクルージョンの推進は、経営陣によるビジョンや経営方針の策定からはじまります。昨今では経営トップの決意として、障害者雇用促進を目指す世界最大規模の経営者ネットワーク組織「The Valuable 500」に加盟するケースもあります。
2 インクルージョン施策を推進する組織体制の構築
経営トップが陣頭に立って、部門を横断した多様な人材による推進チームや、社外の専門家の登用も念頭に置いた監査体制の構築を進めます。
3 制度やルールを策定して環境整備
経営トップと推進チームで連携をとりながら、インクルージョン課題に対する施策を講じ、制度やルールを策定します。
4 意識改革と行動変容を支援
従業員の意識改革と行動変容を支援するために、現場をマネジメントする管理職の育成・教育も不可欠です。
5 発言しやすい環境をつくる
継続的に従業員の意見を集め、進捗を確認しながら施策を改善していくためには、社内アンケートやヒアリングのほか、従業員の本音を拾い上げる提案制度などの仕組みも有効です。
このようなプロセスで、インクルージョン施策を推進していくためには、偏見や思い込みに対する気づき、問題意識をもつことが大切です。
具体的には、従業員の声を細かく拾い上げる機会や意見交換の場を設けることや、他社事例を研究する取り組みが求められます。
インクルージョン推進の課題
ここまで、インクルージョン推進のメリットをお伝えしてきましたが、デメリットについても考慮しなければいけません。
インクルージョン推進の課題はこのような点にあります。
- 従業員の理解
- 環境整備
- 長期的な視点での取り組み
これらの内容を詳しく解説していきます。
参考記事:日本企業のダイバーシティ&インクルージョンの 現状と課題
従業員の理解
インクルージョンという新しい取り組みをはじめるには、今までの制度を変化させる必要があります。
慣れている業務を変えることになれば、強い反発が起こりうるため、従業員の理解は欠かせません。
インクルージョン推進の先進企業では、経営トップが取り組みを積極的に社内外に情報発信しています。
多様性の重要さを主張し続け、経営戦略としてもインクルージョン推進の必要性を明確に位置づけることで、従業員の意識の中に深く浸透させていくことができます。
環境整備
インクルージョン推進で、環境整備は不可欠です。
障がいなどで配慮を必要とする従業員を新しく受け入れるためには、その従業員が社内で支障なく行動ができ、スムーズに仕事が進められる環境が必要となります。
例えば、車椅子を使用する従業員を受け入れるためには、建物内の段差をなくしたり、車椅子のまま作業ができる高さの机などの備品を揃えなければなりません。
また今までの制度を変化させ、企業としての受け入れ態勢を整える必要もあります。
育児や介護をしながら働く従業員のための休業制度の見直しや、一人ひとりのライフスタイルに合わせた労働時間の設定など、細かく改善していくことになります。
長期的な視点での取り組み
インクルージョン推進には、制度や採用基準を変える必要性があるため、長期的な視点での取り組みが必要です。
本来踏むべき手順を怠ったり、従業員の理解がないまま進めたりすると、個別的、単発的な取り組みになってしまうおそれがあります。
経営トップ自らが取り組みに関して、強いコミットメントを実施し、社内に必要性を伝えられているかが、各企業におけるインクルージョン推進の成果を左右する重要な課題です。
リコーが取り組むインクルージョン
最後に、リコーが取り組むインクルージョンとして、「両立支援制度」をご紹介します。
弊社では、育児や介護などに対して、休業制度をはじめ、多様な働き方ができる環境を整えています。
育児 | 介護 | |
休業制度 | 子どもの2歳の誕生日の月末まで休業を取得できます。 | 介護を必要とする方一人につき、通算で2年分を取得できます。 |
多様な働き方①時短勤務 | 子どもの小学3年生の学年末まで時短勤務が可能です。(5~7時間勤務) | 開始後3年間で2回まで時短勤務が可能です。(5~7時間勤務) |
多様な働き方②フレックスタイム勤務 | 子どもの小学6年生の学年末までフレックスタイム勤務を利用できます。 | 介護のためにフレックスタイム勤務が利用できます。 |
多様な働き方③シフト勤務 | 一日の所定の勤務時間を変えずに、始業時刻を前後にずらして勤務する制度です。上司の承認により利用でき、日によって時短勤務との使い分けもできます。 | 介護のために利用でき、始業時刻を午前7時〜10時の間から15分単位で選択できます。 |
その他の主な制度 | 妊娠休憩・休暇産前産後通院休憩・休暇育児休憩子の看護休暇 | 介護休暇 |
時間外労働の免除昇格に関する評価期間の配慮両立支援再雇用制度(結婚・出産・育児・介護・配偶者の転勤などを理由にやむを得ず退職した場合、希望があれば再雇用の機会を提供する制度) |
このように、ワークとライフをマネジメントしながら、やりがいを感じて働くことのできる環境を整備し、会社の持続的な成長と社員の自己実現をかなえられる企業を目指しています。
関連記事:リコー:ダイバーシティ&インクルージョン
まとめ
今回の記事では、インクルージョン社会とはどのようなあり方かを解説しました。
社会や企業がインクルージョンに取り組むメリットは多くあります。
しかし、これまでのやり方を整備したり従業員の意識を合わせたりするためには時間が必要です。
インクルージョンな社会を目指し、SDGsの目標を達成するためには、長期的な視点の取り組みが大切です。