障害者差別解消法の改正ポイントをわかりやすく解説!罰則や具体例もご紹介

障害者差別解消法が2024年4月1日に改正されました。
障害の有無に関わらず、日本に暮らすすべての人々が尊重しあって共生できる社会を目指すために制定された法律です。
差別がよくないことだということは知っていても、具体的にどのようなことが差別にあたるのかはよくわからないですよね。
今回、改正された障害者差別解消法では、どのように内容が変化したのでしょうか。
この記事では、改正内容のポイントや、罰則規定をはじめ合理的配慮の具体例などについてもわかりやすくご紹介します。
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目次
障害者差別解消法をわかりやすく解説
障害者差別解消法は、2016年4月1日に施行されました。
わかりやすく解説すると、社会における障害者の人権を守るために制定された法律です。
この法律により、障害を理由にした差別や不当な扱いを受けることを防ぎます。
障害にはさまざまな種類や程度の違いがあるため、社会において困難に感じることも、必要なサポートも個人レベルで違ってきます。
個々に合ったサポートをおこなうためには、さまざまな障害についてきちんと理解することが重要です。
障害を理由にした差別や不当な扱いを解消するため、行政機関や地方公共団体、そして民間事業者を対象に3つの義務が課せられています。
- 不当な差別的取扱いの禁止(第八条第1項)
- 合理的配慮の提供(第八条第2項)
- 環境の整備(第五条)
参考記事:(内閣府)障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律
障害者差別解消法の対象
障害者差別解消法の対象となるのは、障害者基本法第2条第1号に規定する障害者(身体障害、知的障害、精神障害、発達障害)です。
障害者手帳の有無に関わらず、日常生活や社会生活を送るうえで、障害によって不便を感じている人が対象となります。
さらに対象者が女性のときは、障害をもっていることに加え、女性であるがゆえの困難な状況に置かれることが予想されるため、その点も考慮した配慮をおこなうことが重要です。
また、対象者が子どもであれば、成人とは違う特別な配慮が必要になる可能性がある点についても考慮する必要があります。
障害者に配慮をおこなう側の事業者は、営利・非営利、個人・法人に関わらず対象になります。
事業者には、地方公共団体が経営する企業や公営企業型地方独立行政法人が含まれますが、それ以外の国や国の行政機関が所管する独立行政法人などは含まれません。
教育、医療、福祉、公共交通など、日常生活や社会生活にかかわる事業が対象です。
参考記事:(内閣府)障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針
不当な差別的取扱いの禁止とは
禁止される不当な差別的取扱いとは、企業や店舗においてサービスを受けようとする障害者に対し、「障害がある」という理由だけでサービスの提供を断る行為を指します。
例えば、心臓疾患によってペースメーカーを使っている人がスポーツジムに入会しようとする場合、スポーツジムはどのように対応すべきでしょうか。
心臓に疾患を抱えていると、「途中で具合が悪くなったら」という危険性を考え、スポーツジム側はそれを正当な理由として入会を拒否するかもしれません。
上記の拒否理由は、果たして正当な理由といえるのでしょうか。
一見するとジム側が、対象者の健康を考えて出した正当な理由のように思われます。
しかし、ペースメーカーを入れているというだけで、ジム側が一方的に入会を拒否する行為は不当な差別的取扱いと判断されます。
正当かどうかは、客観的に見てその対応に至った理由が妥当かどうかが大切です。
差別に対する認識の違いによって意見が分かれそうなところですが、一方的な見解だけで障害を理由に断っている点がポイントです。
スポーツジムなどを運営する側の、できるだけ事故や危険を回避したい気持ちは理解できますが、そのような危険性は利用するすべての人に起こりうる可能性があります。
ペースメーカーを利用している場合は、人によっても違いはありますが、心臓に負担がかかりすぎる激しい運動やペースメーカー自体に負荷がかかるような運動は避けるなどの制限はあるものの、すべての運動が禁止されているわけではありません。
障害による症状は個々で異なるため、話を聞き総合的に判断することが重要です。
そのうえで、一方的に入会を断るのではなく、対象者が可能な運動メニューを考えるなどの配慮が必要です。
参考記事:(内閣府)共生社会の 実現に向けて
合理的配慮の提供とは
私たちは、日常生活や社会生活において、特に何の障壁も感じずに暮らしています。
しかし、障害者はあらゆる場面やサービスにおいて障壁を感じることがあり、それが障害者の活動を制限してしまうことにもつながっています。
合理的配慮とは、障害者が不自由を感じることなく利用できる環境を整えることです。
現在、公共の場所などでは、さまざまな障害に対するバリアフリー化が進められています。
障害に対する配慮は状況によって異なるため、設備の常設だけではなく、可能な範囲で工夫して対応することが重要です。
また、おなじ程度の障害であっても、性別や年齢によって配慮すべき内容が変わることもあるため、内閣府および関連行政機関が提供する資料などを参考に検討しましょう。
参考記事:(内閣府)障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針
これまでに実際にあった配慮を知ることにより、問題点の解決方法や対象者に適したサポートを提供することができます。
関連記事では、合理的配慮の具体例や問題点についてご紹介しています。
関連記事:合理的配慮とは何かを簡単に解説!具体例や問題点・どこまでおこなうべきかも紹介!
【2024年】障害者差別解消法の改正のポイント

障害者差別解消法は2024年4月に改正され、どのように変わったのでしょうか。
改正後の基本方針に記載しているポイントは以下の3つです。
- 「不当な差別的取扱い」や「合理的配慮の提供」に関する例を新たに記載
- 行政機関等・事業者と障害のある人の双方の「建設的対話」と「相互理解」が重要であることを明記
- 国及び地方公共団体が連携協力して対応できるよう、内閣府が以下について検討することを新たに記載
不当に扱うつもりはなくても、何が差別にあたるのかという判断はとても難しいものです。
これまでの事例を各キーワードから検索できるシステムがあります。
内閣府が提供しているデータ集では、障害者自身が経験した不当な扱いや、それに対する対応方法などが紹介されています。
参考記事:(内閣府)合理的配慮等具体例データ集
合理的配慮の義務化はいつから?
合理的配慮が義務化されたのは、令和6年4月1日からです。
これまで、差別的取扱いは全面的に禁止されていましたが、合理的配慮の提供においては行政機関などは「義務」、事業者の提供は「努力義務」でした。
今回の改正によって、事業者も「努力義務」から「義務」に変更されました。
何らかの対応が必要な場合は、過度な負担になりすぎない範囲での対応が必要です。
例えば、同じような事例や解決法があったとしても、状況によっては同じように対応できない可能性もあります。
また、この法律による障害者というのは、障害者手帳を持つ人だけに限りません。
障害によって、さまざまな行動に不便を感じるすべての人が対象となります。
障害は、見た目でわかりやすいものもあれば、本人が告白しなければわからないような精神的障害(発達障害や高次脳機能障害なども含む)もあります。
高次脳機能障害は、脳卒中などの病気や交通事故などが原因で、脳の一部を損傷したことによる脳機能の障害です。
損傷した部分によって出る症状もさまざまで、どのような障害があるのかを詳しく知る人は少ないのではないでしょうか。
障害による不便を解消するための合理的配慮は、サポートを提供する側と受ける側の双方の建設的な対話によって生まれます。
障害について詳しく知らない場合は、一方的に判断して決めるのではなく、対象者の状況を確認しながらともに対策を考えていくことが大切です。
障害者差別解消法の制定理由と求めるもの
障害者差別解消法の制定は、障害をもつ人に対する差別をなくす目的で、2013年6月に制定され、2016年4月1日に施行されました。
参考記事:(内閣府)障害者差別解消法リーフレット
制定された背景には、国連で2006年に採択された「障害者の人権及び基本的自由の享有を確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進するための包括的かつ総合的な国際条約である障害者の権利に関する条約(権利条約)」があります。
日本は、権利条約に2007年に署名し、それ以降国内で「共生社会」の実現に向けた法整備が進められてきました。
人の価値は障害の有無や性別によって変わるものではありません。
スーパーや飲食店など生活に関わる場所だけでなく、例えばコンサート会場やキャンプ場などの施設でも、平等に楽しめる環境を整えていく必要があります。
障害という理由だけで、あきらめなければいけない状況にならないようにしないといけません。
合理的配慮は、提供する側の配慮だけで成立するものではありません。
外見ではわかりづらい障害も多く、全体的にすべての障害を理解できる人は少ない状況だと思います。
障害の程度や状況によって必要な支援も変わりますし、事業者によっては対応できないこともありますが、まずは障害をもつ人が支援を気軽に求められる社会になることが理想です。
そのためには、社会に生きるすべての人々がさまざまな障害があることを理解し、一人ひとりができることをしようと心がけることが大切です。
社会全体の環境整備が進むと、障害をもつ人の活動範囲も広がります。
障害をもつ人自身が、どのような場所でも障害による障壁を感じることなく暮らせる社会が理想です。
参考記事:(内閣府)障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針
障害者差別解消法の罰則はある?
障害者差別解消法が改正されましたが、罰則の改正はおこなわれていません。
今後、罰則についても改正されることがあるかもしれませんが、今のところ罰則規定は現行どおりです。
現行の罰則規定では、民間の事業者が違反すると、ただちに罰則を課されるというわけではありません。
ただし、事業者は対象者との対話によってできる範囲での対応を模索することが重要です。
仮に対象者の求めに応じることなく、差別的な扱いをおこなった場合は、罰則が課される可能性があります。
事業者の事業を担当する大臣から事業者に対して報告を求められた際は、報告しなければなりません。
報告は義務なので、それを怠ったり偽った報告をしたときは、罰則規定により20万円以下の罰金が課されます。
参考記事:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 – 内閣府
障害者差別解消法での正当な理由とは?
障害者が障壁を感じている場合、事業者は過度な負担がかからない程度で対策を講じる必要があります。
どの程度が過度な負担になるのかは難しいところですが、過去の例などを参考にするのがおすすめです。
しかし、事業所の設置状況やスペースに関する問題などは努力で解決することができません。
また、金銭的に対応が無理なケースもあり、理由が正当ならば不当な扱いとは判断されない可能性があります。
障害者のために講じるサポートの場合は、行政に補助を求められるものがあるので、補助を利用できるかどうかも調べながら検討するようにしましょう。
正当性を判断するものとして、内閣府は「不当な差別的取扱い」にかかわる法的判断の検討プロセスをフロー化しています。
参考記事:(内閣府)障害を理由とする差別の解消の推進相談対応ケーススタディ集
- 客観的(障害者・事業者・第三者)な視点から、事業者の対応が適切だと判断される場合
- 目的に応じられない理由がやむを得ないと判断できる場合(事業者に負担がかかり過ぎるなど)
以上の2つの条件を満たせば「正当な理由あり」と判断されるため、不当な差別的取扱いにはなりません。
参考記事:障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 – 内閣府
適切な配慮を提供するには、身近な方法で解決できるケースがあります。
例えば、聴覚障害者とのコミュニケーションツールとして、リアルタイムで音声言語を文字化するサービスを利用することもおすすめです。
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障害者差別解消法の具体例は?

障害には、身体障害・知的障害・精神障害・発達障害があり、身体障害だけでも聴覚障害・視覚障害・肢体不自由などさまざまな種類があります。
同じ障害であっても程度の違いによって、個々に感じる不自由さは異なるため、第三者のサポートが必要となる場面も人によって異なります。
どのような場所や状況においても、すべての人が必要な配慮を気軽に求めることができ、その要望に周囲がすぐに反応できる社会が理想です。
障害に対する差別をなくすためには、どのような行為が不当な差別的取扱いに該当するのかを知ることが重要です。
不当な差別的取扱いの具体例
例えば、視覚障害者が盲導犬とともに行動する際、店舗などが盲導犬の入店を拒否することは法律違反にあたります。
盲導犬を含むすべての補助犬は、ペットではないため一般の人が利用できる施設への同伴が法的に認められています。
また、障害がある人だけの入店や来店時間を制限する行為、同伴者の同行を必須にするといった行為も不当な差別的取扱いです。
障害を理由に、ほかの人と差がある対応はすべて不当な差別にあたります。
近年は、各地でさまざまなイベントなどがおこなわれていますが、イベントに興味をもった障害者も気軽に参加できるのが理想です。
例えば、車いすユーザーが外出時に常に気にしなければいけない問題がトイレです。
公共の場において、車いすで使用できるトイレの場所は限られています。
根本的な問題として、多機能トイレの数を増やす必要がありますが、イベントを開催する施設に多機能トイレがないときはどうすればいいのでしょうか。
トイレの問題を理由に主催者側が一方的に車いすユーザーの来場を拒否することは不当な行為です。
近隣に多機能トイレを有する施設があるときは、イベント開催時に使用ができるように許可をとるなどの配慮をおこないます。
サービスを提供する側にはそれ相応の理由があるかもしれませんが、一方的な意見を押し付けずに双方の建設的な対応が求められます。
障害に対する勝手な思い込みや面倒臭いという理由から、状況的には必要のない介助者の同行を求めたり、逆に介助者の同行を拒むことも差別的な行為です。
また、対象者のことを無視して、同行した介助者だけに話しかけるような行為も認められません。
同行者との会話のほうがスムーズかもしれませんが、対象者自身も内容を把握する必要があります。
例えば、対象者に聴覚障害があって手話通訳者を同行させていた場合は、手話通訳者を介しての会話が中心になりますが、対象者本人とも意思の疎通が確実にできるようにします。
予測不可能なことは、状況によっては対応しきれないこともあると思いますが、比較的起こりやすいことに関しては、ある程度マニュアル化しておくようにしましょう。
マニュアルを作っておくことで、働く人の合理的配慮に対する意識も変わるのではないでしょうか。
聴覚障害に関していえば、状況に応じて筆談を取り入れたり、聴覚障害者用のコミュニケーションツールの使い方を把握したりするなど、日頃から準備しておくのもおすすめです。
参考記事:(内閣府)合理的配慮の提供等事例集
合理的配慮の具体例
盲導犬はペットではありませんが、犬であることに変わりはありません。
ある店舗に盲導犬が同行するとして、その店内に犬アレルギーがある人がいるケースでは、どう対処したらいいのでしょうか?
過去の事例として、盲導犬を同行させる人と犬アレルギーがある人の双方が納得したうえで、離れた位置に座席を配置したというケースがありました。
また近年は、銀行や病院などの受付では、整理券を発行し順番が来たらモニターなどに番号を表示して知らせるシステムを導入しているところが増えています。
このシステムは音が聞き取りづらい人には便利なシステムですが、番号が見えない視覚障害者には、不便なものです。
この不便を解消する配慮として、受付時に担当者が番号を把握して順番が来たら対象者に直接知らせるという方法があります。
ある障害にとっては便利なことも、別の障害にとっては不便になっている可能性があるという一例です。
すべての人に配慮した設備には限界があるため、細かな部分は人によるサポートが絶対的に必要です。
適切なサポートをおこなうためにも、それぞれの障害の特性について深く理解するようにしましょう。
聴覚障害者への適切な配慮の方法を、下記のリンク先でご紹介しています。
関連記事:耳が不自由な人が困ることとは?聴覚障害者への必要な配慮も詳しく解説!
過度な負担の判断基準は?
配慮が必要な場合、店舗側はできる範囲で配慮をおこなう必要があります。
しかし、難しいのは過度な負担の明確な判断基準がないため、どの程度まで配慮をおこなうのが適切かわからない点です。
配慮を求める側も、場所や環境が変われば対応ができないこともある点を理解する必要があります。
大切なのは、求める側の一方的な意見を優先させるのではなく、お互いが納得したうえで、提供する側にも過度な負担がかかり過ぎないようにすることです。
提供する側に過度な負担を強いることは、単なる「わがまま」と捉えられる可能性があります。
障害の有無に関わらず、お互いが相手の立場や状況を考慮して歩み寄ることが大切です。
関連記事:合理的配慮とわがままの違いは?特別扱いと感じてしまう理由や過度な負担の具体例も紹介!
事業者にできることとは
適切な合理的配慮の提供にあたり、事業者が最初にできることは障害者からの相談に対応するための体制を整えることです。
事業所の規模や業種に関わらず、相談体制の整備は法的に義務付けられています。
障害の種類や状況によって、相談内容はそれぞれ異なりますので、不当な差別にあたると判断された事例や具体例を把握しておくことも重要です。
過去に同じような事例がないケースでも、建設的なやり取りを通じて双方が納得いく形で解決できるように心がけます。
対応の方法や配慮に対する考え方は、事業者が把握するだけでなく、働く人すべてに共有し、状況に応じた案を出し合うことも必要です。
障害者差別解消法の相談窓口はある?
障害者差別解消法を含めた障害者差別に関する相談をしたいときは、住んでいる地域の自治体や各府省庁に相談窓口が設けられています。
相談窓口では障害者だけでなく、対応方法などに悩む事業者も相談することが可能です。
相談内容によっては、どこに相談すればよいのか悩みますが、そのようなときには内閣府の「つなぐ窓口」がおすすめです。
「つなぐ窓口」は、2025年3月下旬まで試行的に設置されているサービスなので、需要が多ければ常設される可能性があります。
メール相談と電話相談があり、電話相談窓口は祝日や年末年始を除く毎日10時から17時までです。
「つなぐ窓口」は、相談に対し、相談者に適切な自治体や各府省庁などの相談窓口につなげるために、調整や取次をする目的で設置されています。
参考記事:(内閣府)障害者差別に関する相談窓口「つなぐ窓口」
配慮が必要なときは、市販されている障害者対応の専用機器やアプリケーションなどのツールの導入も役立ちます。
一度導入してしまえば、同様のケースに流用できるため、要望が多いものについては、対応できるツールの導入を検討することもおすすめです。
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まとめ
利用者の危険性などを考慮したうえであったとしても、障害者の利用を断ったり制限したり、利用する側が納得できなかったりした場合は、不当な差別的取扱いになりえます。
また、利用者側が正当な要求だと思うことでも、事業者の状況や環境によってはわがままととられる可能性があります。
障害者差別解消法に沿って合理的配慮をおこなう際には、双方が建設的な対話を心がけることが最も重要です。
この法律が制定された理由を理解し、誰もが楽しく豊かに暮らせる国を目指しましょう。
