聴覚障害者の雇用率は?離職理由や定着のために企業に求められる配慮も徹底解説!

聴覚障害者の雇用率にも関わる障害者雇用促進法では、一定数の従業員数を超える企業に対し、法定雇用率(民間企業の場合2.3%)を定めています。
該当する企業は、従業員に占める障害者の割合を法定雇用率以上にする必要があります。
では、日本における聴覚障害者の雇用率はどのくらいなのでしょうか。
この記事では、聴覚障害者の雇用率は?と題し、企業が抱える聴覚障害者の離職率などの問題をはじめ、求められる配慮も詳しくご紹介します。
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目次
聴覚障害者の雇用率はどのくらい?
障害の程度によって働きやすい環境も変わってきますが、聴覚障害者の雇用率はどのくらいなのでしょうか。
令和4年の障害者雇用状況の集計結果によると、民間企業の実雇用率は2.25%で、法定雇用率2.3%以上を達成している企業の割合は48.3%でした。
厚生労働省によると、令和4年度の障害者雇用総数 613,958人に対して聴覚障害者は35,171人という記載があり、それを元に計算すると、聴覚障害者の雇用率は 5.728%という結果になります。
障害者雇用状況は、雇用義務のある事業主などに報告を求め、厚生労働省ではその報告を元に障害者(身体障害者・知的障害者・精神障害者)の雇用状況の集計をおこなっています。
法定雇用率に達している民間企業は全体の半分以下という結果ですが、前年とくらべると1.3ポイント上昇しています。
また、公的機関(国・都道府県)や独立行政法人などの法定雇用率は2.6%以上と定められており、実雇用率はそれを上回っています。
一方、公的機関(市町村・教育委員会)の法定雇用率は2.5%ですが、教育委員会の実雇用率は2.27%なので、法定雇用率をクリアできていない状況です。
法定雇用率をクリアしていなくても、前年とくらべるとポイントはアップしている状況のため、全体的な雇用率は向上しているといえます。
日本における聴覚障害者の割合は?
日本で身体障害者手帳を保有している聴覚・言語障害者は、約34万人です。
「聴覚・言語障害者」となっているのは、聴覚障害は生まれつきのものから加齢によるものまで、発生時期も原因もさまざまで、障害の程度や障害が起こった状況によっては、言語障害をともなう場合があるからです。
さらに見ていくと、身体障害者手帳の有無に関わらず、聞こえづらさを感じている人は約1,400万人以上にものぼり、割合は全人口の11.3%です。
耳の聞こえづらさを感じている人のうちの約200万人が補聴器を使用しています。
また、補聴器を使用していない人も含め、難聴を自覚している人は約3,400人いて、3人に1人程度が聞こえづらさを感じているという結果です。
人によって状態が違う聴覚障害
ひと口に聴覚障害といっても、障害や発生した時期、程度で人によって状態が違います。
聴覚障害は次の5つに分類されます。
ろう者 | ・音声言語を習得する前から聞こえない ・手話が第一言語である |
難聴者 | ・音が聞こえづらい状態 ・聞こえ方は人によって異なる ・補聴器を利用していることが多い |
中途失聴者 | ・音声言語を習得後に聴覚を失った ・音声で話せる人も多い ・相手の口の動きで会話を読み取れる人もいる |
人工内耳装着者 | ・手術によって人工内耳の埋め込んでいる |
聴覚情報処理障害(APD) | ・音は聞こえるものの言葉として理解できない |
耳の聞こえ方によって、相手との会話に使う方法が異なります。
ろう者の場合は、第一言語として手話を使う人が多いですが、すべての聴覚障害者が手話を使うわけではありません。
一人ひとりに合った配慮をおこなうために、聴覚障害について正しく知ることが大切です。
聴覚障害者の就職率
2021年の厚生労働省が発表している資料によると、聴覚障害者の就職率は40.3%です。
これは、求職申込件数7,523件に対し、就職件数3,035件から算出された数値です。
障害者雇用における就職率は新型コロナウイルスの流行によって減少しましたが、徐々に戻りつつあります。
障害者雇用の市場における聴覚障害者の就職は、一般的に有利といわれる内部障害者や下肢障害者と同等程度に有利だといわれています。
聞こえ方の程度によってもコミュニケーション方法が異なりますが、耳での聞き取りに不自由でも、筆談などの方法をとれば意思疎通ができるからです。
また、雇用管理のために介助者を常駐させる必要もほぼありません。
近年は、ビジネスにも使える聴覚障害者対応のアプリケーションなども増えているので、聴覚障害者の雇用率はさらに高くなることが予測されます。
参考記事:(厚生労働省)第122回 労働政策審議会障害者雇用分科会議事次第
聴覚障害者が働きやすい職種は?

聴覚障害者は一般的な会話が苦手なので、接客が多い職種や営業には向きません。
では、聴覚障害者が働きやすい職種には、どのようなものがあるのでしょうか。
基本的には、接客や電話対応などが含まれない職種であれば、どのような職に就くことも可能です。
特に事務職や専門職など、屋内でおこなえるデスクワークに適しています。
補聴器を使っている場合は、騒々しい場所での聞き取りが困難になるので、できるだけ静かな環境のほうが働きやすいといえます。
音による判断が難しいため、音で危険を判断する必要がある場所での作業は向きません。
ここからは、聴覚者が働きやすい職種について詳しくご紹介します。
事務職系
事務職系は書類の作成・管理やデータ入力など、パソコンを使う業務がメインで、求人数も多いジャンルです。
Excel・Word・PowerPointなどのパソコンスキルが必須になりますが、定型業務がほとんどなので、周囲への確認や質問などが比較的少なくて済むのがメリットです。
企業にもよりますが、近年は社内外のやり取りに、電話よりもメールやチャットなどのツールを使う機会が多いため、聴覚障害者が働きやすい環境が整っています。
軽作業系
軽作業系は倉庫や工場内での荷物の仕分けや、製造ラインでの検品作業などです。
覚えやすい業務で、一度覚えたことを繰り返す作業がほとんどなので、未経験でもはじめられます。
危険がともなう場所では、聴覚者が視覚から危険に気付けるよう、ランプを点滅させて知らせるなどのシステムの導入が必要です。
また、聴覚障害者が音での判断が難しいことを周知させると同時に、不測の事態に備え、担当者を常駐させるなどの配慮も望まれます。
エンジニア系
エンジニア系は、工学に関するさまざまな技術者を指します。
技術者はそれぞれの分野において、人工システムの開発企画・設計・製作・運用・保全などに知識や技術を利用し、便利な環境をつくっていきます。
近年、特に人気なのはITエンジニア(開発系エンジニア・インフラ系エンジニア・IT関連職)です。
昔からあるSE(システムエンジニア)やプログラマーをはじめ、近年はWeb関連のネットワークサービスやクラウドサービスに関わるものなど多岐に渡ります。
障害の有無に関わらず、個人が持つ技術力で仕事ができるのが魅力です。
デザイン系
デザイン系はファッション・インテリア・ジュエリー・ブックなど身の回りのあらゆるものをデザインする職業です。
フラワーコーディネーターやカラーコーディネーターなど、カラーセンスやアート要素を取り入れるコーディネーターもデザイン系に該当します。
また、グラフィックデザイナーやCGデザイナーなど、デジタル系のデザイナーもデザイン系に分類されます。
デザイン系もエンジニア系と同様に、障害の有無に関わらず個人の知識やデザイン力を活かせる職種です。
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聴覚障害者の収入はどのくらい?
聴覚障害は、他の障害とくらべると施設の改装などの配慮は必要はなく、介助者を常駐させるなどの特別なサポートがなくても働ける場合がほとんどです。
そのため、求職者に対する就業率も高く、正社員として働ける場合も多くあります。
聴覚・言語障害のある雇用者の年間収入額は約309万円で、全労働者の年間収入405万円の約76%に該当します。
参考記事:(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)聴覚障がいのある雇用者の活躍に向けて
現在の日本では障害の有無に限らず、同じ成果をあげても性別や学歴または、雇用形態によって収入に格差がある状態です。
今後、ビジネスにおいてもSDGsが進んでいけば、不平等がなくなり、収入の差もなくなるものと思われます。
聴覚障害者の離職率
聴覚障害者の就職率は40.3%という調査結果がありますが、聴覚障害者に限定する離職率はわかっていません。
就労している障害者への調査をみると、「今と別の会社で働いたことがある」という問いに回答した人は56.0%でした。
就労経験のあるうちの半分以上は、離職経験があることになります。
令和3年の厚生労働省発表のデータによると、全体的な離職率は13.9%なので、障害者の離職率はとても高いといえます。
ただ、以前の会社を辞めた経験がある人のなかに「途中で障害者になったため、働けなくなった」という人が含まれることも考慮しなければなりません。
障害者の離職理由は、個人的理由が61.3%と最も高く、その次に多いのが事業主の都合によるもので19.5%でした。
では、障害者の離職理由の半数以上に該当する個人的理由とはどのようなものなのでしょうか。
聴覚障害者の離職理由は?
聴覚障害者の離職理由の半数以上を占める、個人的理由の詳細は以下の通りです。
- 賃金、労働条件に不満・・・32.0%
- 職場の雰囲気・人間関係・・・29.4%
- 仕事内容があわない・・・24.8%
- 会社の配慮が不十分・・・20.5%
- 障害のため働けなくなった・・・16.6%
- 家庭の事情(ただし、出産・育児・介護・看護を除く)・・・16.4%
- 通勤が困難・・・9.7%
- 出産・育児・介護・看護・・・9.7%
「障害のため働けなくなった」という理由をのぞけば、一般的な離職理由と同じ内容であることがわかります。
賃金や労働条件、または職場の雰囲気や人間関係の改善は、障害の有無に関わらずに求められることです。
障害者離職率に限った理由としては「会社の配慮が不十分」ということが考えられます。
離職理由はひとつではなく、複数あると考えられますが、障害者に対する配慮を正しくおこなうことで離職率を下げられます。
参考記事:(厚生労働省)障害者雇用実態調査結果
聴覚障害者が定着するために必要な配慮

では、具体的に聴覚障害者が定着するために必要な配慮とは、どのようなことなのでしょうか。
聴覚障害者は、聞こえ方やコミュニケーションをとる方法が個人の状況によって異なります。
例えば、耳が不自由だからといって手話を使うとは限りませんし、人によっては補聴器や人工内耳で聴力を補ったりしているため聞こえ方もさまざまです。
聞こえ方や障害になった時期によって「できること」「できないこと」が異なるため、相手の口の動きで会話を読み取れる人もいれば、読み取れない人もいます。
聴覚障害者への配慮を考えるうえで、相手の聞こえ方やコミュニケーション方法を理解したり確認したりすることがとても重要です。
また、聴覚障害者に対して特別におこなわなければいけない配慮は、「聞こえない」「聞こえづらい」という点に対する配慮だけといえます。
その他の配慮は、ほかの社員と同様に相手の立場にたって配慮すべき内容です。
以下では、聴覚障害者に対するものを中心に具体的な配慮をご紹介します。
相性がよい業務を任せる
聴覚障害者は人との会話やコミュニケーションを要する業務には向きません。
接客業やサービス業をはじめ、営業や社内外でのミーティングが多い業務は負担になる可能性が高いといえます。
また、聴覚障害者は慣れない場所への外出も困難なので、個人でおこなえる事務職などの相性がよい業務を任せるのがおすすめです。
補聴器などを使用して聞き取りができる場合でも、相手の口元を見て読み取る口話を併用している場合もあります。
仕事の指示などを出すときにも、できるだけ相手から口元が見える場所で話すなどの配慮が必要です。
内容が間違って伝わらないように、重要なことはメモなどに書いて渡すなどの工夫をすると親切です。
苦手な部分はサポートして成功体験を重ねる
聴覚障害者に限らず、一緒に働くうえで相手の苦手な部分を理解してサポートすることは大切です。
聴覚障害者は、仕事が間違わずにできているかのほかに、耳から得た情報をきちんと理解しているかということにも不安を抱えています。
特に初めて働く場合は、さまざまなことに不安を覚えるので、確実にできる仕事を依頼し、成功体験を重ねて自信を持たせることも大切です。
仕事を進めるうえで、確認すべきことや質問などをすぐに聞けるような環境を整えることも重要です。
聴覚障害者がいつでも質問できるように、チャットツールなどを活用すると、答える側も文章で送れるので、間違った内容で伝わるのを防ぐことができます。
必要な配慮やコミュニケーションの方法を理解する
生まれつき耳が聞こえないろう者は、言語障害をともなっている場合も多く、ほとんどの方が第一言語として手話を使っています。
その一方、途中まで耳が聞こえていた中途失聴者や難聴者の多くは、手話を使えません。
このように、聴覚障害者によって聞こえ方やコミュニケーション方法は違うので、状態を確認したうえで、必要な配慮やコミュニケーション方法を理解する必要があります。
言葉を話した経験がある中途失聴者や難聴者の多くは、聞こえづらくても聞き取りができたり、相手の口の動きから会話を読み取る方法をとります。
いずれの場合も、1対1の会話は成立しやすいですが、複数人の会話を聞き取ることは困難です。
大勢が集まる場所では、文字起こしをする担当者や手話に訳してくれる人が必要になる場合もあるので、個人や状況に合わせた配慮が必要です。
孤独感を持たせない
聴覚障害者は周囲とのコミュニケーションが苦手です。
職場では仕事の会話だけではなく、何気ない日常的な会話をすることもあるのが一般的だと思います。
しかし、聴覚障害者は耳からの情報を得づらいため、何気ない周囲の会話も聞き取ることができませんし、複数人での会話には入れません。
そのため、職場では孤独感を感じてしまう人も多くいます。
孤独感を抱いてしまうと、委縮して必要なことも聞きづらくなる傾向があります。
仕事の質問なども気軽にできるようにするために、担当者を決めて積極的にコミュニケーションをとるように心がけましょう。
コミュニケーションの壁を取り除くツールを活用する
聴覚障害者とコミュニケーションをとる方法として、以前より筆談が使われてきました。
近年はパソコンやスマートフォンの技術発展により、聴覚障害者向けのコミュニケーションアプリが数多くあり、筆談の代わりに使えます。
コミュニケーションの壁を取り除くツールとして、日頃使うスマートフォンにダウンロードしておけば、街中で困っている聴覚障害者に声をかけるときにも活用できます。
無料で使えるものも多く、利用方法も簡単です。
音声で伝える場合は、リアルタイムで文字に変換してくれます。
音声から文字に変換する際は、ほかの音を拾わないように、できるだけ静かな場所に移動して話します。
文字化されたものを確認し、誤変換された場合はその場で修正するようにしましょう。
チームの情報共有や意見交換もしやすくなる「Pekoe」
ビジネス用のコミュニケーションツールとしておすすめなのが、チームの情報共有や複数人での意見交換もしやすくなる「Pekoe(ペコ)」です。
Pekoeはリアルタイムの会話を文字変換するWindows対応の音声認識ソフトなので、聴覚障害者を含めた複数人でのミーティングなどに向いています。
音声が間違って変換されたときは、気付いた人がその場ですぐに修正できます。
この修正機能によって、会話の認識のズレが減り、効率的に仕事を進められるのがメリットです。
Pekoeにはチャット機能も備わっているため、会議だけではなく日常的なチャットツールとして活用することもできます。
聴覚障害者も意見や質問がしやすくなるのと同時に、会話の内容も残るので、記録としてあとから見返せるのも便利です。
公式サイトからアプリをダウンロード後、アカウント登録をするだけで簡単に使えるので、まずはチームトライアルから無料で試してみてください。
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まとめ
この記事では、聴覚障害者の雇用率や離職理由について詳しくご紹介しました。
聴覚障害をもつ人が不安なく働くためには、対象者それぞれにあった配慮をおこなうことが大切です。
一緒に働く社員の一人ひとりが、聴覚障害についての理解を深めることも重要です。
聴覚障害者向けのツールなども取り入れ、気軽にコミュニケーションをとれる環境づくりに努めましょう。