インクルージョン教育はなぜ必要?実践例や日本の教育課題もまとめてご紹介!

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インクルージョン教育をイメージした画像

地球上には、さまざまな特性や個性、社会背景をもった多様な人々が生活しています。

これは学校においても同様で、教室内にはさまざまな子どもがいます。

このような、多様な子どもの学習を保障する方法として推進されているのが、インクルーシブ教育です。

この記事では、なぜインクルージョン教育が必要なのかについて、実践例や日本での教育課題について、まとめてご紹介します。

インクルージョンとは?

インクルージョンとは、日本語に訳すと「包括」「包含」「包摂」という意味を持つ言葉です。

インクルージョンは、欧州の社会福祉政策の理念をルーツとしています。

1970〜80年代に、フランスの社会保障制度の網からこぼれ落ち、周縁化された集団を指して、社会的排除という概念が生まれました。

当時は産業構造の変化や移民の増加などにより、失業や貧困が問題視されていました。

その対策として生まれたのがインクルージョンという考え方です。

近年では欧州を中心に、多くの国々でさまざまな取り組みが推進されています。

インクルージョンについての詳細は、以下の記事を参考にしてみてください。

関連記事:インクルージョンとは?ダイバーシティとの違いや取り組み事例もわかりやすく解説!

教育におけるインクルージョンとは?

教育におけるインクルージョンとは、障がい者と健常者とを同じ教室で学ぶことを意味します。

ただ、単に同じ教室で学ぶだけではなく、子どもが学校で充実した時間を過ごし、一人ひとりが自分に合った教育を受けられる仕組みを整備することが重要です。

そのため通常の学級の他に、特別支援学級、または特別支援学校などが連携し、多様な学びの場を用意することが必要です。

例えば、通常の学級で授業を受けながら、障がいに対応した特別な指導を受ける「通級」も方法のひとつです。

通級による指導は、自治体によってさまざまな方法で実施されています。

参考記事:インクルージョンと教育

学校で取り組まれるインクルーシブ教育

現在、学校ではインクルーシブ教育が推進されています。

インクルーシブ教育とは、「すべての子どもを包摂する教育」のことで、障がいのある子どもと障がいのない子どもが共に学ぶ仕組みのことです。

また、障がいの有無だけでなく、性的マイノリティ、外国にルーツがある、ヤングケアラーなど、多様な子どもが存在することを前提として、すべての子どもの教育の保障を目指しています。

これは、人間の多様性の尊重などの強化が目的で、世界中でさまざまな取り組みが実施されています。

どんな子どもも排除されず、学びに参加できるよう対応するプロセスが、インクルーシブ教育です。

最終的な目的としては、すべての子どもがともに学び、多様なあり方を認め合える全員参加型の「共生社会」の実現があります。

参考記事:文部科学省:共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進

インクルーシブ教育はなぜ必要?

インクルーシブ教育はなぜ必要なのかという理由は、いくつか存在します。

まず、子どもが集団で活動するための力を養うためには、ともに学ぶことが必要不可欠という考え方です。

また、子どもは子ども同士で刺激し合うことで成長するため、包括的に教育したほうが多くのことを学べるという考え方もあります。

他にも障がいの有無などで分離して教育を受けると、その分離された状況が当然の認識として育つため、障がい者に対して差別意識が生まれ、大人になってからともに生活することができなくなるというのが理由のひとつです。

また、本来は一緒に学ぶのが普通であり、分離することは差別であるため、分離している現状は間違っているという考え方もあります。

このような理由から、インクルーシブ教育は必要であるとされています。

インクルーシブ教育はいつから始まった?

インクルーシブ教育がいつから始まったのかというと、きっかけは、1981年の「国際障害者年」におけるメッセージです。

「すべての子どもが通常学級で学ぶこと」を目的に、インテグレーション教育という教育の方向性が定められました。

このインテグレーション教育は、障がいの有無に関わらず、分け隔てなくみんな一緒の場所で学ぶことが重要とされていました。

ただ、同じ環境で学ぶことを優先して推進したため、支援が必要な子どもへのサポート体制が不十分でした。

結果として、子どもの個性やニーズに適した教育が受けられず、障がいのある子どもが授業についていけなかったり、いじめの対象になったりするなど、さまざまな問題が発生しています。

このような問題から、1994年にスペインのサラマンカで「特別なニーズ教育に関する世界会議」が開催され、インクルーシブ教育の理念が唱えられました。

参考記事:東京都市大学:「インクルーシブ教育システム」とは何か

インクルージョン教育とインクルーシブ教育の違いは?

ここまで、インクルーシブ教育についてご紹介しましたが、似た言葉にインクルージョン教育があります。

ここでは、インクルージョン教育とインクルーシブ教育の違いについて解説します。

まず、それぞれの言葉を英語にすると、インクルージョン教育は「inclusion education」となり、日本語で包括教育という意味です。

インクルーシブ教育は、「inclusive education」で、統合教育という意味になります。

この2つの言葉が目指すものは、どちらもほぼ同じで、主に教育現場ではインクルーシブという言葉が使われ、インクルージョンはビジネス現場で使われています。

ダイバーシティ教育とインクルーシブ教育の違いは?

近年、多様性を意味するダイバーシティという言葉をよく耳にするのではないでしょうか。

ダイバーシティという言葉は、インクルーシブ、インクルージョンと似ていますが、意味は全く異なります。

ダイバーシティ教育とインクルーシブ教育の違いについて知れば、インクルーシブ教育の理解がより深まるでしょう。

ダイバーシティは、日本語で「多様性の包含・受容」と訳され、人材の多様性を認め、互いに受け入れ合うことを意味し、インクルージョンは、人材の属性に関わらず平等に機会を与えることを意味します。

つまり、ダイバーシティは多様性を認めること、インクルージョンはその多様性を活かすことです。

インクルーシブ教育のメリットは?

インクルーシブ教育のメリットについてイメージした画像

インクルーシブ教育には、障がいのある子どもとそうでない子どもの両方にメリットがあります。

まず、障がいに関係なく学べるという点があります。

個人のニーズに合わせた指導をおこなうことで、障がいがある子どもの能力を伸ばすことが可能です。

また、障がいのある子どもが、障がいのない子どもと一緒に学ぶことで、自己肯定感を育むことにもつながります。

インクルーシブ教育は、障がいがない子どもにもメリットがあります。

それは、障がい者への理解が深まるという点です。

障がいがある子どもと一緒に学ぶことで、自分と異なる個性や価値観を受け入れる心を育むことが期待できます。

その他にもインクルーシブ教育により、授業内容がわかりやすくなるという点があります。

インクルーシブ教育は誰でも授業の目標を達成できるようにする取り組みが必要なため、障がいがない子どもにとってもメリットです。

例えば、小さい字が読みにくい子どものために文字を大きくしたり、障がいがある子どもでも理解できるように工程を細かく分けて授業を進めたりすることは、障がいの有無に関わらず学習の理解促進に役立ちます。

このようにインクルーシブ教育は、多様な価値観を受け入れ、豊かな情操を養うことができるというメリットがあります。

インクルーシブ教育と統合教育の違いは?

インクルーシブ教育に似た意味をもつ言葉に、統合教育があります。

日本語に訳すと、どちらも同じ内容に思えますが、実際は違います。

まず、統合教育とは、障がいがある子どもを対象として、通常教育の中で特別な教育を施すことです。

一方で、インクルーシブ教育は、学校から排除されうる子どもに焦点を当てながら、多様なニーズをもつすべての子どもを対象にした教育です。

それぞれの子どもが多様であることを前提として、障がいの有無に関わらない、自分に合った配慮を受けながら学べることを目指しています。

参考記事:障害児教育におけるインクルーシブ教育への 変遷と課題

インクルーシブ教育と特別支援教育の違い

学校教育法に位置づけられている特別支援教育は、障がいのある幼児・児童・生徒の支援を充実させるために、全ての学校において推進されているものです。

特別支援教育とは、障がいがある子どもの自立や社会参加を支援するための教育です。

その目的のため、障がいのある子どもが、自らの能力を伸ばして自立できるように、さまざまな教育的取り組みをおこなっています。

インクルーシブ教育と特別支援教育は異なりますが、どちらも共生社会を実現するという目標は同じです。

インクルーシブ教育は、互いに尊重し合える共生社会の実現を目指し、そのシステムを構築する上で必要となるのが、特別支援教育といえます。

参考記事:特別支援教育から インクルーシブ教育へ

インクルーシブ保育とはどういう意味?

インクルーシブ教育と似たような言葉に、インクルーシブ保育というものがあります。

このインクルーシブ保育とはどういう意味なのかを解説します。

インクルーシブ保育とは、インクルーシブ教育と同様の取り組みを保育の現場でおこなうものです。 

つまり、障がいの有無に関わらず、さまざまな背景をもつ幼児を同じ環境で受け入れ、すべての幼児が必要な援助を受けながら共に成長できることを目指す取り組みです。

参考記事:インクルーシブ保育の理念と方法

インクルーシブ教育の実践例

ここからは、インクルーシブ教育の実践例について「基本的な環境の整備」「合理的配慮」「校内外との連携や支援体制の強化」の観点から解説します。

基本的な環境の整備

インクルーシブ教育の実現のため、行政機関がおこなうべき項目として、多様な子どもが共に学べるための基本的な環境の整備があります。

例えば、階段の多い校舎は、車椅子で通学する子どもにとって移動が困難です。

そのため、校舎内の段差を減らし、スロープなどを設置することで移動面での不便を解消することができます。

また、必要に応じてボランティアを配置する仕組みを作ることで、障がいがある子どもでも適切な支援を受けながら、通常学級で学ぶことが可能です。

このように、必要とされる基本的な環境の整備は、他にもいくつか存在します。

実例を挙げると、

  • 子どもの障がいの程度に合わせて、特別支援学級や通常学級などを行き来できる体制を整えること
  • 特別支援学級と通常学級共同で学習をおこなうこと
  • 個別の支援計画を作成すること

などがあります。

参考記事:文部科学省:基礎的環境整備について

合理的配慮

障がいがある子どもが、他の子どもと一緒に教育を受けるためには、それに必要な調整をおこなうための合理的配慮が必要です。

そのため、障がいの程度やニーズに対応した配慮の内容を決定し、その内容を柔軟に見直すことができる仕組みが必要になります。

例えば、障がいのある子どもが通常学級で一緒に学ぶようになると、障がいがない子どもは勉強が遅れる可能性があり、迷惑と感じるかもしれません。

インクルーシブ教育のためには、合理的配慮が必要ですが、その結果として授業が進まないなどの不利益があってはなりません。

そのため時間をかけて、それぞれの違いを認め合えるようにする必要があります。

また、合理的配慮のためには、基本的な環境整備も必要です。

例えば、スムーズに移動するためのスロープや点字ブロックの設置や、支援するための人材の確保が必要になります。

参考記事:インクルーシブ教育と合理的配慮

校内外との連携や支援体制の強化

インクルーシブ教育を推進するためには、さまざまな支援が必要です。

そのため、障がいのある子どもが就学から成人するまで、一貫した支援が続けられるように、さまざまな機関と連携する必要があります。

学校の卒業後などに支援が途切れてしまうと、インクルーシブ教育が実現できているとはいえません。

そのため、校内外との連携や支援体制の強化が重要です。

例えば、通常学級と特別支援学校が連携し、子どもの成長過程や指導内容を共有することで、一貫した支援が可能になります。

また、外部の専門家からの指導・助言を活用することで、より的確な支援につなげることが可能です。

海外におけるインクルーシブ教育

海外のインクルーシブ教育についてイメージした画像

ここからは、海外におけるインクルーシブ教育の現状や具体的な取り組みについて紹介します。

海外では、すでにさまざまな取り組みが実施されています。

今後のインクルーシブ教育に向けた取り組みの参考にしてみてください。

イギリス

イギリスでは、障がいのある子どもを「特別な教育的ニーズがある子ども」と表現し、障がいの有無で学校教育を区別しない考えを基礎方針としています。

インクルーシブ教育の例として挙げられるスクールに、カムデン地区にあるスイス・コテージ・スクールがあります。

この学校は、施設のバリアフリー化や支援器具の導入だけでは通常学級で学習できない障がいのある子どもたちのための特別支援学校です。

2〜19歳までの学習障がい、コミュニケーション障がい、自閉症スペクトラム障がいがある子どものために設立されました。

障がいの程度に合わせてカリキュラムが分かれており、学習内容を個人の長所や関心の強さに合わせているのが特徴です。

また、コミュニケーション能力など、生活に必要なスキルの向上を重視しています。

さらに、大学や医療機関、チャリティー機関などと連携し、普通学校や特別支援学校での教育機会の拡大にも注力しています。

参考記事:イギリスにおけるインクルーシブ教育の実際

フィンランド

経済協力開発機構(OECD)による国際的な学習到達度調査において毎回上位に位置しているフィンランドは、インクルーシブ教育も進んでいる国です。

フィンランドでは、2000年に障害児教育法が基礎教育法に一本化されました。

これにより、特別支援学級や特別支援学校で学んでいた子どもが、障がいの程度に合わせて、可能な範囲で通常学級に参加できるようになりました。

また、フィンランドの特別支援教育には、

  • General support(一般的な支援)
  • Intensified support(より強化された支援)
  • Special support(特別な支援)

の3段階の支援体制が用意されています。

特別な支援を必要とする子どもだけが支援を受けるのではなく、すべての子どもが通常学級において、合理的配慮のもとに個人に合わせた教育を受けることができます。

参考記事:フィンランドにおける教員の連携についての研究動向

日本におけるインクルーシブ教育の課題

日本においても、インクルーシブ教育の取り組みは進んでいますが、現在さまざまな課題があります。

その中でも特に大きな課題は、通常学級に在籍する障がいをもつ子どもへの支援が進んでいないことです。

日本では、これまで障がいをもつ子どもには、特別支援学校で指導をおこなうことに重点を置いていました。

しかし、現在は通常学級に在籍する「LD(学習障がい)」「ADHD(注意欠陥多動性障がい)」「高機能自閉症」などの子どもに対する支援の充実が課題となっています。

日本では、このような子どもが適切な支援を受けているケースが少なく、特別支援学校への通学が妥当と思われる子どもでも、通常学級で支援もなしに学んでいることが多くなっています。

インクルーシブ教育の問題点

現在、インクルーシブ教育にはさまざまな問題点があり、これらを解決するためにも教育環境の整備が求められています。ここでは主な問題点を3つ挙げます。

まず、最初に挙げられる問題点は、インクルーシブ教育を進めることで、障がいのない子どもから見たときに、「障がいのある子供たちは特別扱いされている」と感じる点です。

特定の子どもだけ別室で勉強したり、課される問題数や作業が少なかったりすることで「ずるい」と思われてしまい、いじめに発展するおそれがあります。

このようなケースを防ぐためには障がいに対する正しい理解が必要であり、なぜ支援を受けているのかについて、全員が納得できるように説明することが重要です。

次の問題点は、授業の進行が遅れる可能性が生じることです。

障がいがある子どもには、より丁寧に説明したり、時間を長めにとったりする必要があるため、これにより、授業が計画通り進まない場合があります。

そのためには、理解が早い子どものための活動を用意することや、担任の他に個別にサポートしてくれる人を用意することなどが必要です。

最後の問題点は、インクルーシブ教育をおこなうことで、担任への負担が大きくなる点です。

障がいの有無に関わらず、一緒に授業を受けるのは理想的と言えますが、環境整備などの準備が必要となり、担任など教育担当者には大きな負担がかかります。

それを理解したうえで、自治体や関係機関、地域住民などと連携し、力を借りることも必要だといえます。

参考記事:障害児教育におけるインクルーシブ教育への 変遷と課題

インクルーシブ教育の目指すところ

最後に、インクルーシブ教育の目指すところであるゴールについてみていきましょう。

インクルーシブ教育が目指しているゴールは、お互いに個性を尊重して支え合い、多様性を認め合える全員参加型の共生社会の実現です。

そのため国連では、すべての子どもが障がいの有無やルーツなどに関わらず、合理的配慮のもと、同じ環境で学ぶべきとしています。

これは、多様な子どもが同じ環境で学ぶことで、差別や偏見を減らし、多様性を尊重する心を育むことにつながるという考え方です。

そのため、インクルーシブ教育は、障がいがある子どもの自立のためだけでなく、全員が当事者となる共生社会の実現に必要な教育概念です。

ただ、インクルーシブ教育には、障がいのある子どもに対する周囲の理解不足や支援の不十分さ、同一教室内で授業をおこなうための環境整備など現在さまざまな課題があり、解決すべき点が多く存在します。

これらの問題を乗り越えながら、インクルーシブ教育を実現していくことが必要です。

まとめ

インクルーシブ教育の必要性とメリット、実践例などについて解説しました。

インクルーシブ教育とは、「すべての子どもを包摂する教育」のことで、障がいの有無や性的マイノリティ、ルーツなどに関わらず、共に学ぶ仕組みのことです。

インクルーシブ教育は、障がいがある子どもを尊重し、障がいのない子どもたちと共に教育を受けられるので、障がい者への差別や偏見をなくすことにつながります。

ただ、インクルーシブ教育は、障がいがない子どもから見ると特別扱いしていると思われることもあり、いじめなどに発展するケースもあります。

インクルーシブ教育を推進するには、周囲への理解が必要です。また、環境整備や人材の確保など、さまざまな問題があります。

インクルーシブ教育は、共生社会の実現のために必要であるため、これらの問題を解決しながら実現していくことが重要です。